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 土佐漆喰の作り方 (高知県の土佐漆喰製造業者を訪ねて)その2

 前回に続き、高知県の土佐漆喰についてまとめます。日本には、石灰岩の山は各地にあります。石灰岩が独特の景観を作っている山口県の秋吉台は有名ですが、鍾乳洞で槍のような石灰のツララを見たことのある方も多いと思います。島国でも原料となる良質の石灰岩に恵まれているため、石灰は国内で自給できる数少ない資源の一つです。石灰石は砕石としてそのまま使われることもありますが、多くは焼かれて生石灰・消石灰の白い粉となります。




最上級の石灰岩が掘られていた稲生山
  
  石灰は、人類が付き合いを続けている素材の中でも、最も長い歴史のあるものの一つです。アサリやハマグリが取れる海岸地方では、石灰と似た貝を焼いて貝灰を作ってきました。周囲をさんご礁で囲まれた南の島では、バナナの葉の上に海から取ってきた珊瑚の塊を並べてから火をつけて、珊瑚から石灰を作ります。焼いて砕いた白い粉が、どこにもくっ付いて硬く固まる性質を古代の人も知っていたのでしょう。建築や土木のさまざまな用途に石灰は使われていますが、壁や屋根に塗る漆喰の材料となります。現在では、大型プラントで石灰石が重油を加熱燃料として焼かれて、大量の石灰が生産され、加水されて消石灰となります。

 高知県では、江戸時代に県東部にある稲生山から最上級の石灰岩が発見されたため、周辺に石灰工場が集まっています。江戸時代後期から100年間続けられている田中石灰工業の石灰工場もここにあります。

 山の斜面を利用して地中に穴を開けて作った窯は高さが約8.5mあり、内側に耐火煉瓦を積んだ徳利状の形をしているため、徳利窯と呼ばれています。この窯に、コークスと石灰石と塩を上から入れ、四日間掛けて焼いた生石灰を、今度は下の穴から掻き出す訳です。同じ石灰でも、1200度の高温で焼かれる重油灰と比較して、塩焼き灰と呼ばれるこの製法の特色は、900~1000度の低温でゆっくりと焼く点が違います。こうすると、生石灰の粒子が大きく発達して、壁に塗ったときに収縮が小さい良質な漆喰材料となるといいます。塩を混ぜるのは、石灰石中に含まれる不純物を塩素やナトリウムと反応させて取り除くのが目的だそうです。




塩焼き灰に用いる石灰石




窯に石灰石とコークスと塩を入れる

  石灰に混ぜる藁スサを発酵させる工場も年季が入っていましたが、徳利窯の工場も実にいい味わいです。壁は小舞下地に漆喰を直に塗ってあり、ところどころは仕上げが剥げて下地が見えます。柱も梁も煙でいぶされて真っ黒です。藁床、色土、藁スサ、漆喰、昔から変わらぬ工法で製造を続けている自然素材の工場は、雰囲気がとても似ています。製造機械が進歩しただけで、取り扱う材料は同じで工場の中に、無駄なものが一切ありません。作業している人間が中心で、藁や土や石が相手では、相手に合わせて作業しなければ急いだってものにならないと、時間がゆっくり流れているようです。

 徳利窯の下から掻き出した生石灰の固まりは、ベルトコンベアー上で仕分けされ、消石灰を作るための加水工程に入ります。現在では生石灰の塊に加水する消化の工程をきちんと管理し、集塵機も備えた工場で行っています。材料の温度や状態や加える水分量を集中管理する制御室は、徳利窯の工場と比べると近代的です。以前は、生石灰の山に向けて人がバケツの水を掛けてたら、大急ぎでその場から走って離れたと聞きますから、大変な作業だったと想像できます。30年前の写真を見ると、稲生山の下に集中した石灰工場から出る粉の影響で、道路も畑も雪を被ったように真っ白でした。ただ、石灰は体の中に吸い込んでも毒にならないため、今でもこうして元気に仕事を続けてられるよと、工場の人たちが笑いながら話す光景がとても印象的です。

 塩焼きされた生石灰から作られる消石灰と、発酵させた藁をミキサーの中に入れて混ぜ、しばらく置いてから袋詰めされ、さらに半年間くらい寝かせた製品を土佐漆喰として出荷します。重油灰の消石灰を使っても土佐漆喰にならないらしいのですが、できるだけ時間を掛けて材料を寝かせてから使うことが、土佐漆喰を扱うときの条件のようです。消石灰に加えられた藁スサの発酵がさらに進むことで、材料が馴染んで塗りやすくなり、亀裂などの故障が少なくなるのです。




じっくり時間を掛けて燃やす

 漆喰という材料は、現場ごとに消石灰と海藻糊と麻スサをフネの中で練り合わせて作る現場練り漆喰、塩焼き消石灰に発酵藁スサを混ぜて寝かせた土佐漆喰、消石灰に粉糊と麻スサの材料比率を決めて袋詰めにした材料を現場で水を加えて練って使う既調合漆喰の三種類があります。ほとんどの現場では、天気や材料の具合に応じた調合の苦労や、材料を寝かせる経費が掛からない既調合漆喰を使われています。




生石灰となった塊
 
土佐漆喰だけを使っていると、材料を作ってから寝かせておくことの意味合いが、どんな漆喰材料の場合でもあるように思えてきます。味噌でも醤油でも酒でも、材料が馴染むまで待ってから使うことを守っている蔵は少数派ですが、ここでも時間を掛けたものと急いで間に合わせたものの味の違いははっきりしています。家づくりの素材は、全体工費や工期にも影響があって簡単な問題ではありませんが、長寿命の家を望むからこそ素材づくりにも時間を掛けたものを用いていきたいと考えます。