メインメニュー
 土佐漆喰の作り方 (高知県の土佐漆喰製造業者を訪ねて) その1




土佐漆喰塗りの水切り瓦と海鼠壁の家
  
 建築の設計を始めるためには、使用する素材の知識は不可欠であり、学校教育でも基本素材について学ぶ講座が用意されています。鉄やコンクリートやガラスの扱い方や強度や施工法を知らなければ鉄筋コンクリート造が考えられないように、木を知らなければ木造はできません。さらに、基礎や屋根や壁や建具についても、構成している素材に触れて知識と経験を深めて行けなければ、本当にいい住宅を設計することは無理です。無垢の木、粘土、漆喰、和紙などの自然の素材は、相手に合わせないで強引に施工してみても、じきに故障が起きます。設計者の思い以上に、材料にどうしてほしいかを聞いてあげること、素材の状態を見抜く力、時間を掛けるゆとりが求められている訳なのです。そのために、印刷媒体やPC上での仮想経験を通過したら、もっと相手がよくわかる所までこちらから出かけることが必要だろうと考えます。

  初めて出会った素材に一目ぼれ、という経験はそうめったにありませんが、34歳の時に伊豆松崎の長八記念館で見た土佐漆喰は、まさにそんな魅力的な素材でした。上品で温かみのある薄い鳥の子色をした土佐漆喰塗りの壁は、純白の漆喰しか見たことのない目にはとても新鮮でした。

 早く本場ものを見たくて、一週間後には高知県の土佐漆喰業者を訪ね、漆喰塗りの建物を案内していただきました。高知県は初めてでしたが、安芸地方で見た漆喰塗りの蔵や住宅は、輝く太陽に照らされて映える南欧を連想させるものでした。白で統一されたこんなに豊かな集落が、日本に存在していたこと自体が驚きでした。 以来、設計する住宅の外壁は全て土佐漆喰です。柱や梁を現しにした真壁を金コテで押さえて仕上げるだけでなく、大壁の鎧仕上げや水切り瓦付の壁なども幾度となく経験してきました。この材料は、塗った直後の薄茶色が、序所に乾いてクリーム色に変化していく時期がなんとも言えず魅力的です。できればこのままの色合いを固定したいと毎回思う程ですが、一年くらい経過すると、淡い卵の殻に似た柔らかな白になって、完全に固まります。








戸袋・窓・軒下など全て漆喰で塗り籠める

  1月前半、雑誌原稿の取材目的(『住宅建築』2008年3月号)で、土佐漆喰を製造している高知県の田中石灰工業を訪ねました。通常の漆喰は、海草を煮て漉した海苔に麻スサを混ぜたものを、フネの中で消石灰と練り合わせて作りますが、土佐漆喰は発酵させた藁スサと徳利釜で塩焼きした消石灰とを練り合わせて数ヶ月寝かせて作る点が異なります。藁スサが腐って発酵すると、繊維質のセルロースとコロイド状のリグニンに分解します。消石灰の粒子に絡ませるスサを繋ぐための海草糊を使う代わりに、藁スサから出るリグニンが海草糊の役割をしているのです。漆喰の材料となる消石灰(水酸化カルシウム)は空気中の二酸化炭素と反応して、一年程度で元の石灰石(炭酸カルシウム)に変化して水に強い材料となります。海苔は消石灰が石灰石に変化する期間の粒子の繋ぎの役割をする訳で、海苔分は時間と共に消えてなくなります。




土佐漆喰に使う藁スサ製造工場

 毎年のように台風が通過する雨量の多い高知県で、海苔の代わりに発酵させた藁スサを利用した土佐漆喰という材料が生まれたのは、硬化の途中で雨水に溶けてしまう海苔ではなく、水には溶けにくい藁のリグニンを使ってみることを誰かが気がついたからだろうと、勝手に想像しています。石灰と繊維分とリグニンがバランスがとれた土佐漆喰は、結果として厚く塗ることが可能となり、水に対してさらに効果を発揮することで台風から土佐の建物を守ってきました。 


 土壁の場合でも、藁スサを混ぜて練り置きする期間が長いほど、藁が解けて土と馴染み、粘土の粒子の間にリグニンが多く含まれた水に強い壁となることは、左官の古老が共通して認めるところです。粘土に藁を混ぜて寝かせて強くなるなら、石灰にも藁を混ぜて使ってみることを始めた知恵者が高知県にはいたのでしょう。すばらしい発見だと思います。




数ヶ月寝かせて発酵させた藁スサ




消石灰と藁スサを混ぜて寝かせる
 
 藁スサは、専門の工場(というより年季のいった小屋梁が似合うぴったりの下小屋)で製造されています。稲の藁の節を潰し、3cm程度の長さに切り、コンクリート製の囲いの中に集めて水を掛け、シートで覆って数ヶ月置くと発酵した藁スサが出来上がります。ビニール袋に詰められ、塩焼き灰と混ぜ合わせる別の工場に送られます。荒壁の粘土の場合、切った藁スサと粘土を混ぜて水を加えて発酵させますが、別の場所で藁スサだけを発酵させておいてから粘土に混ぜると、水合せ期間が短縮するようにも思えます。

土佐漆喰の作り方のもう一つの特徴は、徳利釜という消石灰の作り方そのものにあります。次回に続く。お楽しみに!