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 藁スサの作り方 (愛知県の藁スサ製造業者を訪ねて)



地表の粘土が乾いて割れた状態
  


 当事務所で設計する住宅の内壁の仕上げは、漆喰や色土を塗る左官仕上げ、サワラ・ヒノキ・ヒバなどを用いた羽目板張り、和紙や月桃紙を用いた紙貼りが基本で、浴室や台所にタイルや石を張ることもあります。外壁や中間仕切りを竹小舞土壁塗りとすることが多いので、室内の壁を塗り壁仕上げにすれば、荒壁に中塗り・仕上げ塗りと左官職が順に仕上げていくことで、無理も無駄もなく工事を進めることができます。

 左官仕上げは、材料と仕上げ法により千変万化と言われ、調合済みの材料を使わない限りまったく同じ壁はありません。壁の表情を決める要素の一番目の要素は、何と言っても材料の色ですが、加える砂の粒子の大きさやスサの長さも大きく影響してきます。

 粘土は水を加えると柔らかくなり、形を自在に作ることができますが、乾いて固まる工程で粘土の粒子の間に入っていた水が空気中に放出されるために、収縮して表面にひび割れが生まれます。また、水を加えて練った粘土だけを壁に伸ばして塗っても、乾いて崩れてしまいます。そこで、ひび割れもなく強度も併せ持つ塗り壁とするために、使う粘土の粘り具合に応じて藁スサや砂を加えて調合します。スサは、藁、麻、紙などを細く短く切ったもので、粘土や砂の粒子に絡みついて離れにくくする役割があります。一方で、砂を加える理由は粘土の粘性を調整し、壁に強度をもたせるためです。用いる粘土を加えるスサや砂の量は材料に合わせて決めますが、これをスサ按配、砂按配といい、左官の独特の用語です。






工場内に積まれた稲藁




長い藁をローラーに通して潰す

 荒壁に入れる藁スサは稲藁を押し切りで切って用意し、砂も篩で篩って粒子を揃えて使いますが、共に壁を塗る左官職が自前で行うことができます。ただ、スサには長さも種類もさまざまなものがあり、塗る壁に応じて使い分け、材料を作る専門業者もいます。今回は、愛知県豊橋市で粉土を製造している村金工業㈱のすぐ近くで、藁スサを作っている、ワラ精村井商店を訪ねました。

 ここで製作しているスサは、主に中塗り工程に使う長さ2~3cmの藁スサです。材料の元になる稲藁は、工場の主である村井靖規さんが、自ら農家を回り集めたもので、工場周辺の倉庫にも大量に積んで寝かせてあります。スサ作りの工程は、長い稲藁を始めにローラーに入れて節を潰して引き裂きます。次に適当な長さになるように潰しながら切り刻む機械に入れます。そして、潰れた藁から出た粉を篩い分けて、細い繊維状になった藁スサだけを取り出して袋に詰めます。工場の中央に連続して据えられた機械に、稲藁を通して材料を送ってあげる作業を村井さんご夫婦が行います。天井に集塵機が付いていますが、藁の埃は避けられないようです。





細く引き裂かれた藁




長さが揃えられて藁スサとなる
 
 中塗り用に使う藁スサ製造の過程で生まれる1cm以下の藁も、さらに篩いを掛けて粉のみを取り除けば、仕上げ用の壁に使うミジンスサになります。しかし、そのままでも土に帰る藁の粉が産業廃棄物扱いになり、処分に費用が掛かる不合理な制度を、村井さんは嘆いていました。畳の藁床同様、この国の主食であるコメの副産物を循環させていく藁スサ製造は、資源をゴミにしないで手間を掛けてスサという価値に変えていくもので、もっと評価されていいはずです。

 袋に詰められて出荷するばかりの藁スサを手にしてみると、ふかふかしてとても気持ちがいいものです。聞けば、左官用ではなく藁スサを漉き込んだ紙を造る業者に依頼されたものでした。そういえば、左官仕上げ風に似せた藁スサ入りの紙が張ってある建物を見ることがあります。石膏ボードに紙を貼って塗り壁もどきの空間づくりを考えるなら、もう少し時間と費用を出して厚みのある本物の土壁を塗ってほしいものです。さまざまな色合いの金属が混じって作り出す色土の味わいを引き出しているのは、粘土に混ぜられた藁と砂です。空間をつくる素材に厚みや重みを感じられると、その場にいる人は深い安らぎを与えられるようです。見た目を似せた建材に、元の素材を超える力はありません。



村金工業(左)とワラ精村井商店(右)の両名



ミキサーに藁スサを加える加藤左官
 


 粉土製造業を営む村金工業さんとワラ精村井商店さんは親戚関係だそうですが、土モノの壁を仕上げるには両方必要で、近くで仕事を続けている意味は大きいと思います。穏やかや表情で説明を続けてくれた、ワラ精商店の村井さんもかなり高齢で、中部東海地方で続けているただ一軒の専門工場になってしまったそうです。元気なうちは続けると笑っていますが、どうか、質の高い藁スサを今後も日本全国に送り出してもらいたいものです。