メインメニュー
 左官用色土の作り方 (愛知県の粉土製造業者を訪ねて)





粉砕の前の黄土の原土
    
 座敷の壁を一般に京壁と呼んだり、聚楽や稲荷山などのように仕上げ材料の名前で呼ぶことがあります。また、納戸色(ねずみ色がかった藍色)・鉄納戸色(灰色がかった緑青)のように、左官仕上げの部屋の色が色彩の一般名称として使われたりもします。普通、漆喰塗りなら壁は白と決まっていますが、色の付いた粘土(色土)を塗って仕上げた部屋は、まったく同じ色の壁はほとんどないと言っていいくらい、微妙な色合いの差が部屋の雰囲気を特徴付けています。壁に塗って仕上げてみれば、見ていて厭きない奥深さがあります。地味な壁に見えても、花を添えれば花が活きます。軸を掛ければ書が浮き上がります。

 左官仕上げ用の色土は、粘土に含まれる主な金属の発色により、赤系・黄系・水色系・白系・黒系などに分けられます。1935年に森 規矩朗氏が書いた『左官技法 壁の作り方』には、当時使われていた色土や色砂の種類や産地について克明に記録されています。本山磐城松葉・青竹松葉・浅黄松葉・河津松葉・常盤松葉・御庭松葉・鶯茶土・濃鼠土・稀上山吹土・山吹土・錆土・鶉土・錦土・煤竹土・ビロード土・本松葉・藤色土・上岩黄土・青竹土・粉黄土・稲荷山土・浅黄土・板黄土・西京浅黄土・西京聚楽土・西京御国土・西京九條土・西京鼠土・西京白土固・西京錆土・西京大亀谷土・淡路浅黄土。種類が多いことに驚きますが、おおよその色合いぐらいは想像できます。ただし、今は採取も流通もしていない土も多く含まれています。








セメント材料となる浅黄土




対の石臼を廻して粉にする
 
 さて、左官の仕上げ材として使う粘土は、粒子を揃えた粉土として袋詰めされたものが、左官材料を扱う建材店で販売されています。色土自体は地中に広がった粘土なので、材料となる粘土層が分布する愛知県、岐阜県、滋賀県、兵庫県などで、色土製造の専門業者が仕事を続けています。今回は、東京・埼玉の左官仕事をお願いしている加藤左官工業が材料を仕入れている、愛知県豊田市にある粉土製造販売業者を訪ねました。

 村金工業㈱の村井甲子生さんは二代目で、自らダンプを運転して粘土を集め工場をまわしています。人家から離れた川沿いに年季の入った工場があります。最初に、黄土や中塗り土にする粘土の塊を積み上げた、原土置き場に案内されました。いつも山吹色の粉土を見慣れているので、彩度に乏しい元気のない土に見えます。鮮やかな色の粘土層がなくなってきたという話を電話で聞いていたので、こんなものかと思い次の石臼を廻す工場に移りました。




袋詰めされた黄土と赤土






採土場に広がる黄色粘土層
 
 原土の塊を細かく砕いて、壁に塗れる粉土を作るために直径1m、厚さ30cmの巨大な縦回転式の石臼を用います。当日は、建築雑誌の編集者と一緒だったので、村井さんは快く機械のスイッチを押して製粉作業の現場を公開してくれました。南の島の巨大な円形古代通貨風石臼が音を立てながら回転する作業は、実際そばで見ると迫力があります。石臼の周りにはもうもうと粘土の粉が舞っています。これだから街中では仕事ができないんだよ、と困った顔での説明でした。粉にして袋に詰められた粘土は、原土で見るより鮮やかに見えます。赤土の粘土を入れた袋も開けて見せてもらいましたが、この赤土と白漆喰を帯状に塗り分けて仕上げたら面白い空間が生まれそうです。

 黄色の粘土層を掘っている現場をできれば見せてほしい、と事前に伝えてあったので、工場から山に連絡してくれ車で案内してくれました。30分程いった丘陵地に、まさに黄色の帯状の粘土層をパワーショベルで掘り進んでいる現場がありました。水分を含んでいる為ですが、鮮やかな山吹色です。層の厚みは30cm程度と薄く、同じ色の粘土の層は水平に広がっているので、他の土が混じらないように丁寧に機械で削りとります。黄色の粘土層の下は薄い水色をしていますが、こちらは左官用ではなく、粉にしてセメント製造の過程で使う材料になるという話でした。数万年という時間を経て、この色に変化した粘土が愛知県のこの丘に分布しています。しかし、どこでも掘れば出てくるのではなく、ほんの少し離れただけで見つからないのが粘土層です。






黄色粘土のみを削り取る







原土を集めて運び出す
 
 村井さんは、採土業者から黄色や赤などの色土が出たという話を聞くと、特別に頼んで採ってもらい、自分のダンプで受け取りにいくのだそうです。集めた粘土を屋根の下において乾燥させ、工場に運んで粉にして袋に詰めます。先代は、できた粉土を牛に引かせて出荷したと聞きました。愛知県、静岡県、岐阜県、滋賀県でも、左官用粘土を製造販売している工場は、現在数件が残るのみだそうです。さまざまな粒子が集まって発色した粘土は地球の歴史から生まれたもので、我々人間が作り出すことはできません。製造も再生もできない資源であれば、大事に生かして使うのは当然です。さらに、作っている本人の顔が思い浮かべば、使う素材に一層気持ちが入ります。色土をもっと丁寧に、大胆に、そして新鮮な感覚で使っていきたいものだと思っています。