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 藁床の作り方 (藁床製造業者を訪ねて)






 裏菰上の下配藁を圧縮する
    
 一枚の畳を構成している藁床に、一体どれくらいの本数の藁が使われるかご存知でしょうか。およそ30,000本必要なのだそうです。一反(300坪:1000㎡)の田んぼから取れる稲藁は、およそ500kg。藁床一枚の重さは31kg~40kg(床の作り方の違いによる)なので、一反の田んぼを刈り取った藁を使って作られる畳床は、12枚~16枚です。イネを植えて、米を収穫した後に残る藁を、数十年間の使用に耐える藁床という形に変えて使うという文化は、よく考えるとたいしたものです。二酸化炭素の固定に、森林育成と木造住宅の果たす役割が再評価されていますが、この点でも藁床は最先端を行く建築素材といえます。そんなことくらい、とっくに知っていたよ、とお思いの読者がもちろん多いと思います。当方は、昨年暮れに、仲間の畳職に案内してもらって、藁床製造専門業者を訪ねるまで、稲と畳床の関係をあまり深く考えたことがありませんでした。今改めて、畳ってすごいと認識を新たにしています。

 藁床は稲藁を縦横数段に重ねて圧縮した後、糸で縫い合わせて作られます。本来の畳床の構成は、下から下配(縦)、大手配(横)、縦配(縦)、横手配(横)、上配(縦)の五層に重ねた通称・五段配と呼ばれるものです。同じ厚みでも、下配(縦)、大手配(横)、上配(縦)の三層で構成した、三段配と呼ばれる簡略型の床も製造されています。値段が安い分、床一枚の目方も五段配の床に比べて二割程度軽く、その分密度も薄くなり、へたり易くなります。藁床製造工程の説明を受けて感心したことは、藁をまったく無駄なく使い切って畳床が作られている点でした。畳床は町の畳店の注文に応じて製作し、要求する寸法どおりに裁断してから出荷しています。その際に、どうしても藁の切りくずが発生します。短くなった藁は、下配の上に重ねて入れられ次の藁床の材料として組みこまれることで、ごみとなることがありません。









切り藁の上に大手配を載せる
 
 藁にも品質の違いがあります。稲の生育自体が年間の気候に影響を受けるので、ある意味当然なのですが、昨年の藁は気温が高くなりすぎた結果、田んぼの水温が上がりすぎて、藁自体の品質はあまりよい出来ではなかったそうです。コンバイン全盛の時代に、藁を集めること自体にも大変な苦労があり、農家の協力がなければ畳製造もままならない時代なのです。






良質の上配を載せて圧縮する
 
 畳表を張る藁床の一番上の部分は床の顔になるため、上配(縦)に使う藁は長くて良質なものを選んで使います。比較すると確かに立派な藁ですが、これは工場の主人自らが機械の入らない山間部の田んぼに出かけ、鎌でできるだけ長く刈り取って集めていると聞きました。この藁床製造業者に藁を届けてくれるのは、各地の農家に話しをつけて、それぞれの田んぼで藁を束ねる仕事を続けている専業の藁集配業者です。きつい仕事に後継者がいない現在、現在でも高齢の業者が続けられるあと十数年で、藁床の製造自体が立ち行かなくなる危機にあるのが現実なのです。コンバインに脱穀機能に加えて、藁を束ねて送り出す機能を付け加えられれば、作業が少しでも楽になるとも考えますが、どんなものでしょうか。

 かつて、換気が不十分なせいで、マンションでの畳床がダニの発生源と呼ばれたことがありました。また、台湾や中国製の藁床に含まれる藁の在留農薬や、輸送の過程で加えられる防カビ材が問題になったこともあります。こうした理由に加えて、重い藁床は畳職からも敬遠されているようです。現在、藁床に比べて重量が1/2程度のスタイロ床と呼ばれる、ポリスチレンフォーム製ボードを用いた畳床が、畳全体の8割近くに用いられています。循環型の社会の実現を考えれば、藁床こそ理想の建築素材であることに間違いないのですが、畳を取り巻く環境そのものの変化を直視しない訳にはいきません。

 畳の藁床の寿命を縮める最大の原因は、床下の湿気です。床下の通気が悪くて、床板が落ちている家を何度もみてきました。また、畳を敷く部屋の下地が、通気のない合板で作られている家も多いようです。床をできるだけ高くして、床下に風が通る構造にして、荒床にスギ板を用いることで畳床の湿気を逃すことができるのです。通常、畳表は5~6年ごとに表替えを行い、寿命は10年程度ですが、しっかり作られた藁の畳床は50年以上の耐久性があります。表替えの際に気がついて、スタイロ畳をやめて藁床を注文する家が増えている、という話しを聞くと救われる思いがします。




縫い機に通して畳床を仕上げる




三段配(縦・横・縦)の藁床詳細
 
 短い周期で建築・解体を繰り替えしてきた家づくりの結果としてゴミとなった畳床は、藁が良質なら牧場で利用され、普通のものは肥料になって土に返りますが、残りは燃やされて大気中に二酸化炭素を出します。建築を取り巻く環境全体を、循環型社会の実現に向けて適合しているものかどうか総ざらいして、できることから行動していく必要に迫られている時代です。






 埼玉県騎西町で信念をもって藁床製造を続けている、店主の大塚利治さんのとびっきりの笑顔に、元気をもらった気がしました。



河端屋本店店主の大塚さん