メインメニュー
 荒壁の存在感(三ケ日の赤土)
 
 関東地方では、荒壁に使用する粘土は青灰色の荒木田土ですが、赤色・黄色系統の粘土を利用して荒壁を塗る地域も方々にあります。特に静岡県から西の地域では、荒壁塗りを終えた状態の住宅の壁が、仕上げ材料としても十分通用すると思われるほど鮮やかな赤黄色をしているものを見かけることがあります。地元では赤壁と呼ばれて、家の普請に欠かせない要素として今でも強く支持されていると聞きます。



 藁スサを混ぜ寝かせた赤土
    
 住宅や蔵は、外壁の仕上げを板張りや漆喰塗りで仕上げることが多いため、荒壁土がどんなにいい味わいをしていても最後には隠されてしまいます。ただ、タバコの葉を生産してきた地方では、荒壁のままで残っているタバコの乾燥小屋を現在でも見ることができます。得に、愛媛県など瀬戸内地方では彩度の高い赤や黄色の粘土で作られた数多く残され、タバコの代わりにミカンの保存庫として現在でも活躍しています。

 黄色から赤色までの粘土の色は、粘土を構成する成分中の鉄分の量に応じて決まるといわれています。一般に、亜熱帯地方から熱帯地方の大地は赤色をしていますが、これは強い熱射により大地からの水分の蒸発が早く行われる分、地中の鉱物が地表に水分と共に運ばれてきやすいため、主に鉄分が空気に触れて酸化した結果、あの赤い色となるのです。日本でも沖縄県の畑の土は赤色が多く見られますが、粘土鉱床がある場所により赤色粘土は各地に存在しています。富士山や箱根火山の火山灰が堆積した関東ロームの赤土(あかつち)も、含まれていた鉄分が酸化して赤褐色をしているのは同じ理由ですが、こちらの土は粘性が弱くて乾燥するとぼろぼろに砕けるため、残念ながら壁土には不向きです。

 今回、神奈川県横須賀市内の住宅において、工事を担当した吉田左官の手配により、静岡県浜松市三ケ日の赤土を使用して荒壁塗りを行いました。荒壁に使う目的なので、粘土1㎥あたり60~70kgの藁スサを加え、現地で練りあせた状態の土を横須賀までトラックで運び、シートを掛けて水合せ期間を確保して使用しました。非常に鉄分の多い粘土で、発酵した藁スサ混じりの土は青灰系の黒色をしていますが、シートをはずして寝かせた土をクワで採って空気にさらすと、みるみる内に赤く変色します。




竹小舞を掻き荒壁を塗る
 
  竹小舞を掻いて荒壁塗りを行い、乾燥期間をおく間に数種類の塗り見本を作製し、建て主と最終仕上げを決めます。今回の現場では、1階の室内の仕上げは中塗り土を用いて中塗り仕舞いとしました。2階は、赤い荒壁の表情がとてもいいので、しばらくはこのまま住むことになりました。






幅をそろえて塗り藁を伏せ込む
 
塗り厚の大きい荒壁は乾燥して硬化する際にかなり収縮する為、柱や梁や貫材などの周りに隙間が生まれます。外壁が土佐漆喰塗りで仕上げられているため、外壁からの雨の侵入はありませんが、今回は荒壁に少し手を加えることにしました。貫材の上下の壁を一体化させる目的で行う貫伏せは、荒壁に使った同じ土に、中塗り用の藁スサを多めに加え、砂を切って(加えて)割れ難くした材料を使い、幅も一定にそろえてもらいました。さらに、柱と梁のチリ隙部には、やはり同じ荒壁材料を丁寧に詰めて隙間を塞ぐことで、簡易チリ周り工事としました。通常の左官工事では、この後、底埋め斑直し塗り・中塗り・上塗りなどの工程を経て完成とします。

 腕自慢の左官職にはきっと不満が残るでしょうが、今回のように荒壁を見せるのであれば、貫伏せとチリ周り仕事でやめておくという方法もあるわけです。



 終了してみると、赤い荒壁の壁に貫伏せが色違いのボーダーのように映り、なかなかの迫力です。もともと粘性の高い粘土を使い、大量の藁スサをいれて寝かせた材料を塗ってあるため、乾いて硬く締まった壁には数ミリ程度の割れはありますが、壁がめくれるような大きなひび割れはありません。七寸角柱・尺角地棟梁・赤松タイコ梁などの太めの構造材と、荒壁の表情がうまく調和しているようです。



荒壁と共材で仕上げた貫伏せ
 
粘土という自然の素材を使いこなす術を、この国の左官職は長い時間を掛けて生み出し、手種多様な表現が伝わっています。完成度が高い技も、職人の腕には残っています。一方で、自然の素材と格闘することでのみ生まれる、材料そのものの力を引き出す感性が、失われてきているようにも思えます。上品な仕上げ材を見慣れた目には、確かにこの家の壁は荒々しく見えるかもしれません。しかし、わずか1ミリ程度の厚みしかない通常の塗り壁仕上げ材を使った壁とは、次元の違う確かな存在感があります。経年変化の楽しみな壁です。




化粧貫伏せ赤土荒壁仕上げの部屋