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現場リポート 深川の木造町屋
 ■ 木組み詳細

 木という構造部材を現しにして組み上げる家は、丈夫さと美しさを同時に求めます。柱や梁に使う材料は加工場において鉋で丁寧に削られて仕上げられ、現場で傷つけないようにしっかりと接合します。柱を杉か檜か栗か、5寸角か7寸角か、梁を曲がった赤松かまっすぐな杉かなどの選択は、材木を製材所に発注する段階で決める内容であり、柱と梁の配置や組み方は構造設計の段階で決める作業です。しかし、各接合部をどのように納めるかは、担当棟梁と加工場で話し合いながら基本方針を決め、部材ごとに応じた判断は棟梁に任せることにしています。どんな現場も大工手間・加工手間には取り決められた予算があり、全体工期の制限もある以上、その範囲内で出来る一番いい仕事を目指しながら墨掛け・刻みを大工衆にお願いするのがフェアで長続きする方法だと思います。
 手加工の場合、伝統的な木組みの家一棟まとめるには、一坪当たり最低8人工の手間が掛かるとされています。長年続けてみて、慣れた大工衆が取り組んでも8人工では納まらず、大抵10人工位掛かっているというのが実感です。柱・梁など部材を割り振り、使う大きさを揃える分決めの作業に一坪当たり1人工、墨掛け作業に1人工、刻みと仮組作業に2人工、建て方に0.5人工、屋根1人工、造作に3~4人工が平均的なところではないでしょうか。本体以外の、下駄箱・本箱などの家具やキッチン洗面化粧台など現場施工家具は別手間で加算します。太めの部材を組み上げる延床面積30坪の家であれば、大工さんの出面合計は30坪×8人工=240人程度となります。職人手間の地域差を考慮しても、交通費・通信費・機械損料・加工場家賃・光熱費などの経費を加えると、大工1人工20,000~25,000円という金額が相場だと思います。地方と都市部では手間の違いがありますが、材料支給として大工手間だけの契約を大工衆と結ぶ分離発注方式の場合、高度な技量を発揮して仕事を続けてもらうにはぎりぎりの数字のように考えています。

写真1  赤松梁の上で台持ち継ぎで繋いだ赤松梁

写真2  杉の小屋梁を追っ掛け大栓継ぎで繋ぐ

  24年前、独立して小さな自分の仕事場を建てる際、木組みの詳細を覚えたくて青森県田子町の日沢建設の加工場に通い、 毎日継ぎ手・仕口をスケッチしたことがあります。墨差しと曲尺(かねじゃく)使って材木に印を付け、 ノミやカンナで工芸品のように刻んでいく一連の作業に憧れを感じながら眺めていたものです。 知恵と経験の限りを尽くして材料を見極め、時間や手間に拘束されながらも、人の住まいを自分の力で組み上げる 大工の仕事が魅力的でない訳がありません。簡単には一人前になれない奥の深さが、棟梁の人格を形成していくのでしょう。 先人から引き継いだこの国の文化なのですから、当事務所では今後もプレカット工場に頼らずに大工衆と手刻みにこだわって 仕事を続けていくつもりです。
 大工衆に聞いたり本で読んだりすれば、多種多様な接合部を丈夫で美しく木を組むための原則と呼べるものがあることがわかります。 ①見え掛かりの部分は単純にする。②組み上げた後の木の変形に対して、部材同士が互いに拘束し合うようにする。 ③材木の断面欠損をできるだけ少なくする。④組み合わせ部分がぴったり隙間無く合わさるようにする。 ⑤地震や台風などで引き抜けたりちぎれたりしないように楔や栓などの補助部材を活用する。 これだけ覚えて建て方の現場を眺めるだけでも、この国に伝わってきた木造技術の高さに触れられると思います。

写真3  通し柱の背割と直交方向に雇いホゾを打ち込む



写真4  胴差しに入れた雇いホゾに込み栓を二本打ち込む

 さて、今回の現場では四隅に配置した7寸角の通し柱に割れないための背割りが施してありました。 ほとんど節のない材料なので製材所の判断で入れたのでしょうが、芯持ち材の芯より深くまで材の長さ全部に入れられた背割りは 木の繊維を完全に切ってしまいます。通し柱に繋がる胴差しなどの部材のホゾを差す場合、背割りと平行方向に入れたホゾ自体が 通し柱の亀裂に繋がり、背割りと直交方向に入れたホゾには込み栓が利きません。 棟梁の判断で、雇いホゾを背割りと直交方向に入れて、柱から少し離して雇いホゾに込み栓を打ち込んで締めることにしました。 (写真4及び5)
 また、段差を設けて納める軒桁と妻梁に掛けて、変形止めの火打ち梁を入れる場合、低い方の部材には渡りアゴで掛け、高い方の部材にはホゾ差し込み栓打ちにして止めました。火打ち梁がどの程度効くものかは定かではありませんが、小屋組の変形に対して確実に利かせようとすれば、4寸から5寸角程度の材料をできる限り長く渡した方が効果的です。柱も梁も桁も部材自体が大きな小屋組であれば、密に組んだ小屋は変形しにくいはずです。このあたりの実際のところは今後の実大実験などの結果に待たねばならないと思いますが、火打ち梁の存在がうっとおしく見える場合、納まりの美観まで考えて用いたいと考えます。

写真5  通し柱の上で軒桁と高さを変えて納めた妻梁

写真6  火打ち梁を妻梁にホゾ指し込み栓打ちで止める