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現場リポート 深川の木造町屋
 ■ 建て方工事

 自然素材を使った伝統的建築工事は工程毎にその瞬間にしか見られない美しさがありますが、加工場で刻まれた材木が立体的に組み上げられていく建て方の工事は何度体験しても感動します。延床面積25坪のこの家の骨組みは、土台・柱・梁・束・母屋・垂木など合計295本の角材と約60本の通し貫の構成で、各部材の両端には部材位置を示す番付が記されていています。棟梁の頭の中にはすべての部材の位置と組み立て順が整理して記憶されているらしく、難解なジグソーパズルを解くような組立作業も安心して見ていられます。大工衆が持ち場で自分が何をするかを考えなくても体が動くのは、伝統的木組の住宅ばかり手掛けてきた経験の賜物なのでしょう。早朝から始めた建て方作業は夕方には最上部の棟木が上がり終了しました。
 今回の担当大工チーム4人と応援に駆けつけた大工チーム3人、合計7人の平均年齢は30代前半です。少し大きな現場になると3チームの大工衆が集まり10人位で作業を行うこともあり、若くて息があっているせいか担当棟梁は応援チームの大工に気兼ねせずに指図します。それぞれの棟梁の加工場は埼玉県や神奈川県で離れていますが、当事務所の仕事以外でも毎回応援し合って仕事を続けているようです。苦労して覚えた技は簡単には見せないのが職人の世界などと言われることもありますが、今はそんな時代ではありません。職人の間で最新の情報を交換しあい、人の仕事を手伝うことで自分達の技量向上を目指しているのです。

写真1  土台・通し柱・二階床梁などを組む

写真2  柱に杉の通し貫を入れる

  さて、伝統的木造住宅は、水に強い土台・まっすぐな柱・曲がりにくい梁などの材料を適材適所に選ぶこと、地震や台風などの外力や床荷重に耐えられる十分大きな部材を使い各接合部が締まるように組み上げること、一品ごとに違う木という自然素材が活きるように見せることなどの特徴があります。現在主流の家造りは、無欠点の集成材をプレカット工場で刻み、金物を多用して接合部を締めて短時間に組み上げるという工法によるものですが、伝統的な木組みの家造りはそれとは別の技や知恵を大工衆に要求します。立派な棟梁には木に関する力学・経済学・生物学・美学ばかりでなく、人を束ねる心理学や時代の要求を見極める社会学、さらに環境のことまで考えた生態学まで見につける必要があるのですから大変です。当然一人前になるには適性以上に長い修練が求められます。
  機械にできることは機械に任せて合理化すればいいという考えは、やがて建築部品すべてを工場で準備して現場で組み立てるだけにして、ばらつきの無い商品を造ることが最優先という経営に行き着きます。形や色は違っていとも、出来上がる家という商品は本質的には同じなのであることが大事なのです。建築現場で働く職人に求められるのは組立工としの正確さと速さであり、指示書に従うだけの作業には経験や判断力は必要とされません。
  本当に、再生産可能な自然素材だから木で造るという理由でいいのでしょうか。木造ではなく木質構造なのだから、材料のもっている味わいなど必要ないのでしょうか。こんな思想を基にし、大量に作り続けことを前提として、自然素材を加工して均質にしてから使い続けるというやり方はどこかで破綻するでしょう。

写真3  小屋梁を組み上げる

写真4  最上部の棟木を納める

 建て方の現場が見ていて楽しいのは、大工衆に活気があるからです。同時に、組みあがっていく骨組みにも力強さが感じられます。ばらつきのある木という自然素材がうまく虚勢されずに活かされているという印象です。
  我々の目指している木造は、虚勢された木質構造ではありません。大量生産もできません。しかし、その場所にしかない人も素材も活きた木の家を造ることを続けることはできます。そのために集まったチームなのです。

写真5  架構見下げ

写真6  道路側から見た架構全景