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現場リポート 深川の木造町屋
 ■ 墨掛け刻み工事

 木造住宅の中心材料となる材木を天然乾燥の国産材にこだわって仕事を続けていますが、今回は静岡県天竜の樹齢80年檜材と山梨県の赤松材を使いました。2階床を支える3本の床梁は赤松タイコ梁、他は土台・柱・梁など主要部材全てを檜材とし、天井裏の小屋束と垂木のみ杉を用いました。土台は5寸(150㎜)角、四隅の通し柱は7寸(210㎜)角、胴差しや軒桁は幅が4寸5分・背が5寸から7寸の平角材、中央の大黒柱は8寸(240㎜)角で計画しました。当事務所設計の構造材の材積はおよそ0.6㎥/坪前後です。3間半角総二階建て延べ床面積24.5坪のこの家の構造材の材積は13.86㎥となり、1坪当たりの材積は、13.86㎥÷24.5坪=0.56㎥でした。ちなみに、現場リポートの最初に報告した三鷹の新築住宅の場合も、延べ床面積44坪の家に使用した構造材は24.49㎥であり、1坪当たりの材積は同じ0.56㎥/坪でした。
 材料は静岡県藤枝市で国産材を手掛ける㈱石川木材にお願いし、モルダー(4面直角仕上げ)加工済み材を埼玉県所沢市にある大工・佐久間建匠加工場に運搬していだきました。石川木材さんは構造材の価格を部材断面ごとに細かく設定して公表していますが、モルダー加工済み特一等(丸みなし節有り材)檜材の場合、4寸角4m材で12万円/㎥、5寸角4m材で15万円/㎥、7寸角6m材で22万円/㎥程度です。立派な80年生の天乾檜材の製品価格としては決して高い金額ではありません。家一軒を総檜材で造った場合でも、構造材の総金額は200万円弱(消費税5%含み)でした。骨太の伝統的な構法で建てた場合、工事費全体に対しての木材代金は約20%前後であり、半分は構造材で残りの半分が板材と造作材の金額となります。材料費を安く上げる家づくりはあるようですが、同じ国の中で今後も材木を生産し続けるために、山側に応分の費用が廻る仕組みに従っていくことはとても大事だと考えます。

写真1  建て主に届いた材木を確認してもらう



写真2  80年生の5寸角と平角の檜材

 さて、材木を建て主が製材所に発注し、大工さんに提供して加工組み立てを依頼する仕組みなので、加工場に材木が届いた段階で建て主に見てもらいます。自分達の家族がこれから数世代に渡って住み継ぐ家を支える材料なのですから、時間を取って自分の目で確認する作業は必要なことです。発注の際に節の無い等級の材を指定してはいませんが、まとまった材の中には節の無い面を持つ材木をあります。材木の木拾いや図面は我々設計者の仕事ですが、届いた材木全部を広げて一本一本の材を配るのは大工です。自然の素材は一つとして同じものはありません。材木の価値が増すように、よく見える玄関・居間・座敷などに優先的に使う場所を決めていきます。
 設計事務所で描く図面は、意匠図・構造図・設備図・仕様書ですか、構造材を現しにして使う伝統的な木組みの家づくりの場合、意匠計画と構造計画は同時に進める必要があり、照明器具や給排水の配管といった設備工事も構造と関係しています。構造的な安全性ばかりでなく意匠的なバランスを確認するために、ある程度図面を進めた段階で軸組み模型を作ることにしています。構造伏図と軸組み図を見ながら、1/50から1/20程度の縮尺で正確に作ります。細かい仕事なので慣れていても一週間程度の時間が掛かります。材料に墨掛け刻みを行う棟梁にとっても、軸組み模型があると架構全体の理解に役立つそうです。



写真3  縮尺1/20の精巧な軸組み模型

写真4  加工場で棟梁と図面の打ち合わせ

 かなり以前のことですが、大工さんが間取りを決めていきなり造り始めた場合、建ててみないと屋根の形が分からないという話しを聞いたことがあります。地域の材木を使って、その地方独特のスタイルに習って建てることが普通だった時代は、そんなおおらかな方法でも大きな間違いはなかったのでしょう。使う材料は一つの集落で皆同じという時代、一軒ごとの強度や美しさや完成度に差があっても、集落全体には統一された美しさが生まれます。特に木と土と紙で造り上げた自然素材の家並みは、経年変化が同じなので建替えた時も町並みの景観が阻害されることはありません。独自の景観条例を制定して自分達の生活する地域の美観を維持していこうとする試みが全国に広がっていますが、都市部では残念ながら、なんでもありの状態が続いています。
 現場の深川は長く材木の町とてして有名でしたが、現在は中高層のビルが林立するなかに、木造の町屋がひっそりと残っている地域です。深川が木造のみの町並みに戻ることは決してありませんが、地域の一画にほっとするような場所が残ることを望んでいる人は多いはずです。今回は、25坪の敷地に延べ床24.5坪の小さな家づくりです。でも、ここから清々しい風が生まれるような家に仕立てたい、という共通の思いを感じた加工場でした。

写真5  7寸角通し柱先端のほぞ加工を行う



写真6  赤松梁の木口に乾燥割れ止めテープ張り