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現場リポートⅣ 深川の木造町屋
 ■ 地盤補強工事

 丈夫な建物を建てるには、まず安全な場所を選ぶことが前提条件で、古い集落は大抵地盤がしっかりしていて河川の氾濫や山崩れなどの恐れが少ない所に残っています。しかし条件の良い場所が少なくなり、人口増加に対応して住む場所を確保するためには、都市周辺の干潟や沼地や河川を埋め立てて敷地を拡大してきた歴史も一方であります。
 大河に沿って生まれた人類の四大文明まで遡らなくても、江戸や大阪の町には湾や入り江を埋め立てて生まれた町が広がっています。東京の築地という地名は、江戸城の東側に当たる隅田川左岸河口付近の砂州・干潟を、火事の焼け跡の瓦礫やゴミで埋めて造った場所であり、門前仲町・木場・越中島などはこうして開発されて生まれた新田でした。元は海だった場所から人工的に造り上げた土地なので、埋め立てたゴミから発生するガス、軟弱地盤ゆえの沈下、砂の液状化が招く震災など、厄介な問題も抱えながら広がり続けるのが都市の宿命なのかもしれません。

写真1  柱状改良の掘削位置にしるしを付ける

写真2  セメント系固化材を準備し練る

 『地盤と建築構造のはなし』吉見吉昭著・技報堂出版のなかで、吉見氏は「表層の多くが、がっしりとした大地とは程遠い非常に水っぽい頼りないものである。限られた資金で建てる住宅、特に軽い建築の場合は、か弱い地盤を”なだめすかして”利用するしかないのです。」と述べています。大規模な城や社寺などの建設のあたっては、地盤が悪い場合は地盤を補強し、杭を打ち込んでしっかりとした敷地に手を加えてから工事を始めた記録も残っていますが、石の上に土の土台や柱を建てた石場建ての民家では、通常日が当たらないので湿気が多い北側がおおむね「100年1寸」程沈下しているという報告もあります。普段生活している地面が沈んだりずれたりするのを想像したくはありませんが、家を建てる場所がどこでも安全とは限らないと冷静になって考えることも大事です。
 地盤や基礎がらみの紛争の多くは不同沈下・亀裂・傾斜などですが、建物が建っている地盤強度の過大評価や建築を完全無欠な精密機械と混同して生まれる誤解など、地盤の事前調査の有無と建物強度の検討不足が主な原因となっていることも確かです。設計者とすれば、判断が難しい分野でありますが、場所の特性を理解するためには、地名の由来や古地図を調べたり、標準貫入試験(ボーリング調査)やスウェーデン式サウンディング試験を行って建物が建つ位置を特定した調査を行う必要があります。その結果を元に、事業予算の中で適切な杭事業・地盤補強・基礎形式などを比較して判断します。

写真3  杭芯セット後アースオーガーで掘る

写真4  引き抜き後固化材を注入攪拌する

 深川の建築予定地は、埋土を施した地盤面の下約1mほど掘ると水がわき、その下は細かい粒子の軟弱なシルト層がどこまでも続きます。東京湾岸の超高層のビルを支えている杭の先端は、約35m下の東京礫層という地盤です。2階建ての木造住宅であるので、支持層まで達する杭打ち事業は費用が掛かりすぎるので論外ですが、ある深さまでシルト層にセメントを混ぜる円柱状の地盤改良工事を行うことにしました。以前行ったボーリング調査を参考にし、直前に計画建物の位置に5ヵ所でスウェーデン式サウンディング試験を行った結果、地下6m付近にややしまった地層が確認されました。柱状改良方式の施工長さは4.5mとし、直径60㎝の柱状改良を22本行うことにしました。
 地盤の許容支持力は、固い関東ローム層が100 KN/㎡、固結した砂が500 KN/㎡であると建築基準法施行令に示されていますが、計画では設計基準強度をFc=600KN/㎡としてセメント添加量を決めて施工しました。施工補強現場から採取した試験体の施工後7日の1軸圧縮強度試験は2500~3500 KN/㎡の値を示しており、設計基準強度をFc=600KN/㎡以上であることをもって、改良体が支持地盤として十分安全であると判定しました。
 今回の柱状改良工事に掛かった費用は、70万円です。内訳は、材料費が18万、施工費が25万、機械組み立て回送費が17万、その他準備・諸経費等が10万となっていました。3.5間角の正方形平面2階建ての住宅なので、一坪当たりの地盤補強費は、700,000円÷(3.5×3.5)=57,143円掛かったことになります。軟弱地盤地で行う家づくりに当たって、長寿命の住宅を支える地盤の改良工事費として一坪当たり6万円は妥当な金額と考えるべきだと思います。これから先よほどのことがない限り、この場所に建つ住宅はまっすぐ立ち続けていると安心して生活できます。

写真5  杭頭にセメントミルクが出て終了

写真6  基礎工事底面に合わせて杭頭を決める