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現場リポートⅢ 所沢の土蔵移築工事
 ■ 縦縄・横縄入れ施工

 粘土を使って厚い壁を築く工法は世界各地にあり、今でも、版築・日干し煉瓦積み・泥団子積みなどの「泥の建築」が造られています。粘土は木材に比べて入手も加工も容易であり、柱や梁を用いた架構がなくても下から順に積み上げていけば壁を造ることができます。一度固まれば堅固な壁となり、補修も容易で、なにより崩れてもゴミとならずに大地の一部に自然に帰っていきます。耐震要素をもう少し加えれば、究極の循環型素材といえます。工業化には馴染まないので近代建築が無視してきた素材の一つですが、環境面からも泥の建築を再評価する時代になったと考えます。
 土蔵も18~24cmの厚い壁を持つ構造ですが、上記の泥の積み上げ工法と違うのは、木の架構と一体になった粘土の塗り重ね工法である点です。一定の間隔で配置した柱に竹と縄を用いてしっかり下地を結び付け、泥団子状にした粘土塊をぶつけて荒壁を付けます。泥団子が大きくても縦横の竹小舞が物理的な支えとなって粘土と竹や藁がしっかり一体となります。その後薄い壁を幾層にも塗り重ねて次第に壁の厚みを増していきますが、各工程を数えると10回以上の作業が継続的に行われて一軒の土蔵が完成します。
 土蔵造りの塗工程は複雑ですが、厚さ24cm前後の壁とするには以下のような手順で進められるようです。①荒壁付け(塗厚約8cm)、②下げ縄伏せ込み、乾燥期間、③裏返し塗り(2cm)、乾燥期間、④砂摺り(1cm)、⑤大直し(5cm)、⑥下げ縄(縦縄)付け・伏せ込み、乾燥期間、⑦砂摺り(1cm)、⑧樽巻き(横縄)付け・伏せ込み(5cm)、乾燥期間、⑨砂摺り(1cm)、⑩小直し(2cm)、⑪中塗り(1.5cm)、⑫仕上げ塗り(0.3cm)。粘土は乾燥収縮して固まる素材なので、厚く付けられた泥が乾燥するまでの期間を置いて次の工程に移るので時間も掛かります。通常、荒壁付けを春先に行ってから樽巻き(横縄入れ)までをその年に行い、次の年に仕上げ塗り工事を行ったそうです。



写真1  荒壁の裏側が乾いたら裏返し塗りを行う

写真2  壁の端から下げ縄を塗り込んでいく

写真3  下げ縄入れ終了後に乾燥期間をおく

写真4  壁の下から砂摺り・横縄入れを行う

 荒壁付けの後、下げ縄(縦縄)入れ、樽巻(横縄入れ)という土蔵ならではの作業が行われます。また、乾燥期間の後には砂摺りと呼ぶ工程を必ず設けていますが、縦横の縄入れと砂摺りの作業工程が、厚く塗られた土壁を丈夫で長持ちする構造にするために考えられた知恵と言えます。土壁の材料は砂と粘土の粒子が固まったもので、乾いて崩れにくくするために粒子間の繋ぎ材として藁スサを混ぜます。土蔵のように区切りのない大きな壁を割れにくくするには、壁全体を繋ぐ連続した繊維質の材料を塗り層の間に入れてあげることが効果的です。縄を掛けるには乾燥してカチカチに固まった荒壁に、竹で作った釘を打ち込んでいきます。最初に縦縄を入れ、次の塗層には横に縄を張って同じく泥壁に塗り込みます。下げ縄は、壁の最上部から下まで通したものを約9cm間隔に、樽巻き(横縄)は下から順に約6cm間隔に入れます。建物の隅部の補強として、樽巻縄の繋ぎの位置が上下一列にならないように竹釘を打ち込んで、縄を斜めに掛けて塗りこみます。これだけ縦横に繊維で補強されていれば、粒子の固まりの泥壁もちょっとのことでは崩れない堅固な構造になるはずです。
 左官工事の故障は、割れと剥離が代表的な現象ですが、一度乾燥させて固められた粘土の上に粘土を塗り重ねるには、粘土に砂を混ぜた材料を塗ってから(砂摺り)行う必要があるそうです。粘土分が強い壁は固い層になりますが、その上に直に同じように粘土分が強い泥を塗り重ねると、乾燥した後に後で下の塗り層から剥離してしまうからです。砂を効かせた材料のこすり塗り作業が、接着材の効果を果たすといいます。現代ならモルタル施工の工程で、ハイフレックスなどの接着剤を一塗りするのと同じ意味合いと言えます。左官原理の一つに、「塗り重ねの場合、上層は直下層より弱くしなければ剥離を生ずる。」というものがありますが、砂摺りもおそらく長い経験を通じて会得した知恵の一つといっていいと思います。砂摺り・泥付け・縄入れの作業は連続して行い、連続した壁層として乾燥硬化させます。

写真5  樽巻の終了後に乾燥期間をおく



写真6  砂摺り・小直し・角計り塗りを行う

写真7  仕上げ塗り直前の中塗り面(右側の壁)

写真8  塗り層断面に下げ縄と横縄が見える