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現場リポートⅢ 所沢の土蔵移築工事
 ■ 荒壁付け

 粘土を幾層にも塗り重ねて壁を厚くしていく土蔵造りでは、一軒の土蔵を完成させるには二年から三年掛かるのが普通と言われています。長く掛かる工事の中心は当然左官職ですが、左官屋さんの他にも沢山の人が手伝いに集まるのが、荒壁付けの作業です。今回の土蔵の荒壁付けの最初の日、左官屋さんは10人位ですが、珍しい体験ができると聞いて集まった素人の数は20名を超えていました。総勢30名が取り組む作業は、ある種の祭りのようでした
 まず最初に、半年以上寝かせた泥を丸めて直径15㎝程度の泥団子を造ります。これは誰でもできる作業で初参加の者の仕事ですが、ねばねばした泥を丸めていくのは結構楽しいものです。手の感触を楽しみながら行うのは粘土細工や雪だるま作りと同じですが、これは立派なお仕事です。並んだ泥団子には不思議な存在感があり、現代芸術?ともいえなくもない見慣れない場となります。
 ホーイ・ホーイと声を掛けながらリレーで運ばれた泥の塊を、竹小舞の掻かれた建物の傍で待ち受ける左官職に放り投げます。重さで言えば1㎏ほどはある泥団子を両手で持って、数メートル先で待ち受ける塗り手めがけて投げるのです。下の方の壁ならともかく、上の壁になるほど力とコントロールが要る作業です。受け取る方も真剣です。うまくキャッチできないと丸めた泥団子がそのまま地面に落ちてベチャーと広がり材料が無駄になります。



写真1  丸められて並べられた泥団子

写真2  交代で泥団子を塗り手に放り投げる

写真3  塗り手はキャッチした泥を塗りつける

写真4  柱の外側に付けて定規で均す

 塗り手は、受け取った泥の塊を思い切り竹小舞に叩きつけて手で広げていきます。15㎝の泥団子は竹小舞に付けられた棕櫚縄に絡みつき、一部は小舞竹の裏側に出っ張ります。荒壁付けにも順番があります。まず、建物の隅から塗り付け始め、3尺ごとに並んだ柱の部分を決めていきます。手で伸ばした泥の表面を木の定規を使って平らにしていきます。次に柱と柱の間の小舞に泥を付けていきます。
 壁一面の下から上に一段ずつ進めていきます。受け持った壁に泥を付け終わったら、壁の補強のために下げ縄と呼ぶ縄を、付けたばかりの荒壁上部の竹小舞に引っ掛けて荒壁表面に塗りこめます。長さ一丈(約3m) の下げ縄を半分にした距離が、一段分の塗り代ということのようです。大量の藁スサを混ぜて半年以上の期間発酵させた粘土は粘りがありますが、一体となって厚く塗られる建物をひとつの構造体にしていく為に、棕櫚縄が粘土をしっかりと繋ぎとめていく働きをするのです。鉄筋コンクリート造のコンクリートと鉄筋の関係が、粘土と縄ということになります。この後数回繰り返される泥付けのたびに、縦横の方向を変えた縄付け補強が繰り返されます。
 荒壁付けには人手が要ることが、一日体験してみて理解できました。泥を運ぶ係、泥団子を作る係、リレーで送る係、泥団子を放り投げる係、小舞に泥を付ける係。連携作業で一期に壁を造り上げるには多くの人の力が必要となります。24㎝以上にも及ぶ厚みの土蔵の泥壁造りの工程で最初の一番きつい作業が荒壁付けなのですが、一つの大きな節目といえる作業であり、荒壁が付いた時に土蔵が土蔵になっていくのです。土蔵造りにおいては左官棟梁という言葉があるように、以前は荒壁付けが終わった段階で建前の祝いを盛大に行ったそうです。
 約10㎝の厚みで付けられた荒壁は、しばらく乾かして硬化させてから裏返し塗を行い、このあと次の工程まで数ヶ月乾かします。



写真5  泥を小舞竹と棕櫚縄に付けていく

写真6  小舞の裏側に出た粘土

写真7  下げ縄を荒壁に伏せ込んでいく

写真8  屋根まで付けたら一面終了