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現場リポートⅢ 所沢の土蔵移築工事
 ■ 練り漆喰磨き仕上げ

 漆喰は、消石灰や貝灰に海草糊と麻スサを混ぜてフネの中で練り合わせて作るもので、左官職・加藤信吾氏は、消石灰1俵(20㎏):糊1㎏:麻スサ0.8㎏を材料比率の標準としています。角又・銀杏草・布海苔など天然の海草を干してから大釜で煮て漉した糊を使うため、粘り気には斑があり材料に応じて石灰の比率を変えます。また、使用する消石灰は塩焼き灰、麻スサは晒したものですが、日々の天候の具合によっても配合の微調整を行うそうです。石灰と糊やスサの配合は地域性や左官職個人によっても差があり、経験と判断が必要となるやっかいな一面もある漆喰作りです。大量に作れて誰でも塗れるようにすることが要望され、石灰・粉ツノマタ・麻スサの割合を工場で一定に調合して袋詰めした既調合漆喰材が石灰メーカーで生産され以前から販売されています。
 袋から開けた材料を現場で水練した漆喰を塗る方法は、糊塩梅・スサ塩梅を工夫する悩みから左官職を開放しました。漆喰壁といえば既調合漆喰を塗るのが現在では一般的であり、現場で海草を煮て作る漆喰は練り漆喰あるいは本漆喰などと呼ばれ、文化財補修などの現場で用いられているだけのようです。確かに既調合漆喰は簡便で使い易い材料ですが、糊気やスサが不足していると判断すれば糊やスサを足して使う必要があると、加藤信吾氏はよく話しています。同様に、練り漆喰だからと言って盲目的にありがたがったり、文化財補修の現場で行われている過去の材料調合比を頑なに守るだけでは、いい材料は出来ないともいいます。要は、使う海草や麻スサや石灰など目の前の素材の状態を判断して塗る壁の目的に応じた材料を作り出すことが大事なのだ、という話しはどの分野にも共通する説得力があります。

写真1  フネの中で漆喰を良く練り直す

写真2  鏝板の上で材料のダマやゴミを取り除く



写真3  練り漆喰を布で漉して作った共ノロ

写真4  中塗り層に練り漆喰を塗っていく

 漆喰壁の表現は表面の状態に応じて、引き摺り仕上げ、撫で切り仕上げ、鏝押さえ仕上げ、ノロ掛け磨き仕上げの四つに分けられます。平らに塗って鏝で強く押える方法が一番普通に行われているのですが、格式の高い部屋や触れても傷つかないことや水に強いことが求められる壁では、押えた上に漆喰材料を漉したペーストを上塗りしてさらに表面押さえを続ける磨き漆喰壁が行われることもあります。ノロ掛けの工程は漆喰壁の上にもう一つの皮膜をつくるもので、江戸黒漆喰磨き壁も大津磨き壁も同様です。練り漆喰磨き壁のノロは、同じ練り漆喰を布で漉して糊やスサの固まりを取り除いた通称「共ノロ」と呼ばれる材料と、消石灰と貝灰を混ぜて海草糊を加えたものを漉した通称「灰ノロ」と呼ばれる材料があります。現場練り漆喰づくりから始まった今回は、上級と呼ばれる共ノロを使用しています。
 磨き仕事は一日一人一坪と言われています。漆喰塗り→押さえ→ノロ掛け→ノロ押さえ→キラ粉(雲母)打ち→手擦り→鏝押さえ→露拭き(翌日)と神経を使う作業が丸一日続きます。うまく作業が進めば周囲の景色が写る鏡のような壁が生まれます。ただ、作業の出来不出来は、一つ前の中塗り工程のできばえに左右されるようです。左官は塗り重ね工程で、下塗りは堅固な壁の土台作り、中塗りは仕上げ層のための平滑面作り、仕上げは見栄えとそれぞれの工程の役割がはっきりしています。中塗りが平滑に仕上がっていないと、仕上げ塗層で平滑面を補修する必要が生じ、結果として仕上げ層の塗厚に斑が生まれて水引が均等になりません。この状態でノロを掛けても乾いた部分とまだ乾いていない部分があり、いくら丁寧に押えてもパリッとした均一の仕上がりになりません。長丁場の現場では各工程の作業担当が変わることもあり、時間やコストの制限など理想どうりにはなかなか行かない面もあります。しかし、それぞれの持ち場で、結局次の工程、後の段取りを頭に入れて毎日の仕事を続けることが、全体としていい結果を生み出すための唯一確かな方法であることは、昔も今も変わらない原則のようです。

写真5  金鏝で強く押える作業を続ける

写真6  壁一面にノロを掛けて伸ばす



写真7  鏝が掛からなくなったら雲母を打つ

写真8  さらに手の平で壁をこすり平滑にする