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現場リポートⅢ 所沢の土蔵移築工事
 ■ まんじゅうと折れ釘

 これまで取り上げた海鼠壁や水切り瓦は、機能だけでなく装飾的な効果があって建物をより魅力的にしています。ただ、一般的に柱や梁を塗り籠めた窓の無い大壁の土蔵は、妻壁上部に設けた屋号・家紋・水・龍などのサインを除けば、表情に乏しいのっぺりとした印象となることが多いようです。収蔵と保存が目的の機能第一の建物なのですから、装飾と無縁であることの方が本来の姿ともいえますが、それでも無愛想な壁にまんじゅうと折れ釘は着いている土蔵を見かけるとほほえましく思えます。
 まんじゅうは壁に突出した半球状の固まりで、中心に太い鉄製の折れ釘が刺さっています。塗り壁の専門誌・月間さかん2009年7月号には、「折れ釘は、漆喰の塗り替え、屋根瓦の修繕の際などに使われることが多い。それ以外にも、樋受けや屋根の吹き上げ防止などに使われている。」と解説されています。雨樋を受けたり、折れ釘と屋根先を結んで暴風対策にした蔵を秋田県横手市で見ました。庇も水切りも無い大きな一枚の壁の中に上に向いて曲がった折れ釘があればハシゴを掛ける時には役に立ち、周囲に等間隔で数段埋め込まれていれば足場受けになることは想像できます。福岡県柳川市の堀沿いの蔵では折れ釘の代わりに丸環が等間隔で美しく埋め込まれていて、何かを下げたり引っ張る時に使うことを想定していたように見えました。しかし、折れ釘のまったく無いものや規則正しく配置されていない土蔵も多く残っています。まんじゅうと折れ釘は、純粋に用の為ばかりではなく控えめな装飾を望んだ結果とも考えられます。
 さて、今回の移築土蔵の壁には、正面以外の三面に約6尺間隔に二段と棟木下に折れ釘が取り付けられていました。鍛冶屋が叩いて作った長さ30数センチの折れ釘を、建て方の時に柱を掘り込んで取り付けます。壁の厚さやまんじゅうの形式によって一本一本の寸法を決めて発注したのでしょうが、ずっしりと重い鉄の塊です。これなら力が掛かっても曲がりそうにはありません。この土蔵では、南北面の水切り瓦の下地受けに上部の段の折れ釘を利用し、観音扉が開く西側下野の垂木受け材固定に西側の折れ釘を利用しています。したがって、建物完成時には一部の折れ釘は隠れてしまい見えません。

写真1  世田谷区・旧秋山家土蔵のまんじゅう



写真2  柱を欠きこんで折れ釘を納める



写真3  折れ釘周囲に竹釘を打ち縄を巻く



写真4  内部にハンダを詰めて埋める

 荒壁付けが終わると、壁から出た折れ釘の周囲に竹釘を刺し麻縄を巻いてまんじゅうの下地を作ります。その中と周囲にハンダを埋め、砂漆喰を塗って形を整えます。江戸黒漆喰磨き壁の中にまんじゅうが位置するために、平壁同様白漆喰を塗ってから黒ノロを掛けて磨いて仕上げます。水切り瓦や漆喰彫刻が出来上がったなかに置かれると、存在感が薄められてあまり目立なくなっていますが、近くで見るとやはりユーモラスで微笑ましいものです。
 現代の住宅に土蔵の折れ釘やまんじゅうが設けられることはないはずですが、将来に備えた用や工夫を小さくてかわいい造形にまとめるセンスは学んでいい点でしょう。近くで土蔵を見かけたら、折れ釘やまんじゅう(ツブと呼ぶこともあります)を見つけて観察してみてください。楽しい発見があるかもしれません。



写真5  砂漆喰を塗って形を作る

写真6  完成した下地に白漆喰を塗る

写真7  黒ノロを掛けて押さえ磨き仕上げにします

写真8  外壁面の水切り瓦とまんじゅう折れ釘