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現場リポートⅢ 所沢の土蔵移築工事
 ■ 水切り瓦 漆喰塗り付け

 水切り瓦は漆喰塗りの外壁の中間に数段設ける雨除け装置ですが、瓦の目地と上下の表現には左官職の個性とは別に一定の決まりがあるようです。壁と瓦上端との際には半円形に盛り上げた覆輪面を、瓦と瓦のつなぎ目には海鼠漆喰を突き出した角を、瓦を載せる土台下端には下から3段に見える持ち送りをそれぞれ作ります。自在な細工ができて、面の大きさや角度の違いが建物全体の表情や印象となりますが、こんなことが可能なのは5~7㎜もの厚塗りを特徴とする土佐漆喰を使っているからです。砂漆喰で下地を作って形を整えても、最後の加減は自在に抑えたり盛り付けたりできる土佐漆喰がたよりなのです。
 今回の建物で付けられた水切り瓦の目漆喰は全部で約100ケあります。出来上がってみればどれも同じ大きさで同じ角度に仕上がっています。型紙を基にして削りだす細工と違い、こちらは盛り上げて塗りつける仕事です。場所によって担当する左官職は違い、しかも高知から来た有岡さん以外はほとんど初めての挑戦です。どうして同じように完成するのか不思議です。
 やはり、型板を使っていました。薄板を削り銅版を切って、漆喰塗り幅・盛り上げ高さ・角前面の曲げ具合などを確認する型板を作り、仕上げる際のガイドとしていました。作業途中で型板を当ててみて漆喰の盛り付けが足りなければ足し、多すぎれば鏝で削り取ります。これでいくつ数があっても大きな違いは生まれないことになります。平らに塗りつける作業に比べると立体表現はそれだけで手間の掛かる仕事で、初めからうまく納まる簡単なものでないことは見ていればわかります。
 道具も今回初めて見る反り鏝を使っていました。内側にカーブした曲面を押える場合、鏝面も同じように反っていると馴染みがよく綺麗に仕上がります。左官職が使う鏝の種類は仕事に応じて数百種にもなりますが、こんな鏝を作っているのは高知県だけでそうです。仕事が道具を作り、道具が仕事を納めていく。道具と表現は表裏一体であることを実感しました。

写真1  瓦継ぎ目漆喰盛り付け間隔を決める

写真2  瓦の上下に砂漆喰を下付けする



写真3  仕上げ塗り幅に沿って際漆喰を塗る



写真4  目漆喰上部や正面を型板どおりに盛付ける

 さて、水切り瓦を据えつけてからの作業は、海鼠壁の仕上げによく似ています。瓦の上に曲げ尺を使って目漆喰の間隔を決め、幅を決める型板を当てて仕上げ線を記していきます。次に目地に砂漆喰を詰め、さらに仕上げ線の内側に同様の砂漆喰を表裏に付けます。瓦上部の壁との取り合いの覆輪面や瓦下の持ち送り面も形を整えていきます。この後に海鼠壁でも苦労した際漆喰を直線に塗る工程となります。海鼠壁は瓦が平らですが、水切り瓦は曲面です。一層の緊張感が走り額に汗がにじむ瞬間です。
 仕上げの位置まで漆喰を塗ってからは、型板を利用しての作業となります。瓦上部の盛り上げ高さを調整し、角の正面に型板を当てて曲面を決めます。裏側も同様です。砂漆喰で中塗りをして形を整え、土佐漆喰で仕上げ塗りに掛かります。土佐漆喰を鏝で硬く押え、ノロを塗りさらに鏝押さえを続けます。一人一日数ケ所仕上げるのが精一杯というほど手間の掛かる納まりです。
 完全に仕上がってみると、土佐風水切り瓦の造形の美しさに改めて感動しました。雨除け装置の一つといってしまえばそれまでですが、これほどまでに仕上げの完成度にこだわる民族もいないと断言できるほどの力を持った存在です。高知県まで行かなくても、東京に土佐風水切り瓦が見られるようになりました。



写真5  中塗りの出完成した状態



写真6  仕上げの土佐漆喰を塗って押えていく

写真7  表面にノロを掛けてさらに鏝押さえを続ける

写真8  完成した状態の水切り瓦