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現場リポートⅢ 所沢の土蔵移築工事
 ■ 水切り瓦 瓦付け

 地震と台風はこの国に住み続ける限り避けられず、建物を造る際には被害にあわないための対策が必要です。地震に対する技は構法や材料に応じて様々に方法が開発されており、住宅の耐震補強に関する限り日本はかなりのレベルまで進化しました。台風についても、柱梁を覆った外壁の大壁化と窓の機密性能の向上の結果、確かに大雨でも漏水しにくい住まいが増えました。しかし、雨の量に応じた家の地域色は年々なくなりつつあり、日本中軽量屋根大壁仕上げの家ばかりで景観は貧しくなったというのが実感です。
 東京の年間降雨量は1400~1600㎜ですが、直線距離では50~100㎞前後しか離れていない場合でも、岡山市1200㎜、松山市1340㎜、高知市2700㎜のように降る雨の量はかなり差があります。雨の量が特別多くなければ、写真①の岡山県津山市の町屋のように漆喰塗りの外壁に板庇を付けたり、写真②の愛媛県松山市の土蔵のように水平に設けた雨押さえを設けます。大きな壁面を水平に小区画に区切ることで漆喰塗り作業がしやすくなり、収縮による亀裂を防いで、壁にあたった雨をすばやく流して壁を保護できるからです。
 一方、台風の通路にあたる土佐湾の東海岸では、外壁を海鼠壁と漆喰ですっかり固めた上に幾段もの水切り瓦で設けて雨水を寄せ付けない工夫がされています。写真③の高知県安芸市の蔵の水切り瓦は造形的にも力強く、まるで台風に負けまいとする意思が形になっているようです。写真④は四角い角のような③の納まりに比べると、瓦のつなぎ目に付けた目漆喰が丸く納められていることでとても上品です。暴風雨地域ならではの対策ですが、素材と方法は同じでも表現は一軒一軒異なっていて、住み手や左官職の心意気が感じられます。安芸市から室戸市にかけての集落には、色合いも納まりも他では見られない美しさがあります。



写真1  板庇を付けた津山市の民家



写真2  漆喰塗り雨押えを設けた松山市の土蔵



写真3  角ばった漆喰塗り水切り瓦の安芸市の土蔵



写真4  丸い面で納めた水切り瓦の安芸市の民家

 さて、今回の店蔵の移築工事では、海鼠壁の上部に3段の水切り瓦を取り付けることになりました。納まりは高知県の久保田さんと有岡さんの指導で行われました。少し湾曲したいぶし銀水切り瓦は、名海鼠壁に用いた平瓦と共に高知県から取り寄せて使います。屋根用の花熨斗瓦を半分に切って住宅の水切り瓦に使用したことが数回ありましたが、土佐風水切り瓦の材料はやはり本場から求めねばなりません。
 外壁に水切り瓦を納めるには、しっかりとした土台となる部分を設ける必要がありますが、今回は店蔵の妻壁に差した折れ釘に角材を載せて利用しました。角材にラスを張り軽量モルタルを塗ります。土佐風の水切り瓦は下からの見上げを考えて納めるので、瓦を載せる土台は二段にし、瓦を載せてから目漆喰をさらに外側に突き出して塗ります。瓦を貼り付けるには海鼠壁同様ハンダを用います。土佐漆喰・中塗り土・藁スサ・砂を混ぜて作ったハンダをモルタル塗り下地の上下に厚く塗りつけて形を作っていきます。
 湾曲した瓦の裏側1/3程度にハンダを塗りつけます。水切り土台の方も30度程度に勾配になるようにハンダを盛り上げ、その上に水切り瓦を載せて強く押えます。接着剤の釘もボルトも金物も使わないで付けるので大丈夫かと心配にもなります。指導してくれた久保田騎志雄氏によると、「こうやって納めた水切り瓦はその上を俵を担いで歩いても壊れないほど丈夫」なのだそうです。水が流れやすい湾曲が付いている瓦先端を水糸に合わせるのですが、角度は専用の勾配測定器を当て角度を微調整します。壁面の長さに対しての割付は合わせ目に盛り付ける漆喰で多少調整できるので、半端が出ないように張ってしまいます。



写真5  ハンダを塗り固めた水切り瓦土台

写真6  瓦の裏側にハンダを塗りつけておく

写真7  瓦を土台に押さえつけて付ける

写真8  瓦の角度を測定器で測り調整する