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現場リポートⅢ 所沢の土蔵移築工事
 ■ 破風板漆喰塗り

 土蔵を造る第一の目的は、大切な商品や家財道具を火事から守ることです。火を遮る為に、外壁を何度も塗り重ねて厚い土壁とし、屋根を燃えない瓦で葺き、窓には重い防火戸を設ける工夫がされています。雨から建物を守る為にはできる限り軒の出を長くすることが有効ですが、軒裏の垂木や野地板が燃えて屋根自体が落ちてしまう危険があります。耐火性を最優先に考えた結果、延焼の危険のある軒をほとんど出さない造りのスタイルが生まれました。屋根の野地板の上に杉皮を敷いて泥を厚くつけてから直接瓦を葺き、壁と瓦の間を通称ハチマキと呼ぶ斜め上に迫り出した漆喰塗り壁で繋ぎます。写真①の埼玉県川越市蔵造り資料館文庫蔵のように、比較的小規模の単独収蔵庫蔵の場合は、どの方向からの火にも強いこの形式が多いようです。
 屋根の軒をわずかでも出す場合は、母屋や垂木などの木部をしっかりと漆喰で塗り籠めてしまいます。各地に残る近世の城は外からの火を寄せ付けない性能を要求されますが、幾層にも設けた庇の軒裏の部材は全て漆喰で塗り籠め、木部を現しにはしません。この技術が江戸以降の平穏な時代に、軍事目的を離れた一般建築や蔵に応用されていったのだと思います。雨の多い地方や蔵以外の機能を備えた中規模の土蔵の場合は、写真②の愛媛県内子町本芳我邸の様に軒裏塗り籠形式にします。
 一方で、耐火性能に優れた躯体をしっかり雨から守りたいと考えた時、壁と屋根を土で厚く塗り重ねて造った上に、空間を置いて屋根を載せる置き屋根と呼ぶ土蔵独特の屋根形式があります。本体の屋根部分上部は漆喰で仕上げ、置き屋根の接点には石を置いて母屋や登り垂木を乗せます。屋根は軒裏の木部が現しなので、火事の際に屋根だけ燃えて落ちてしまう危険性がありますが、土壁・土屋根の本体は残るので内部に保管した物は守られるという考え方です。写真③の山形県酒田市の大規模米蔵のように、屋根と蔵本体の間にかなりの空間を設けてあるので、屋根面を通じての直射光の熱が蔵の内部に伝わることを隙間の空気が防いでくれます。耐火性能を優先させて機密性を上げた結果、1階は涼しいが2階は暑いという土蔵の不具合を置き屋根でかなり緩和することができます。現代の家造りにも引き継いで良い知恵の一つだと考えます。

写真1  埼玉県川越市蔵造り資料館文庫蔵

写真2  愛媛県内子町本芳我邸

写真3  山形県酒田市の大規模米蔵



写真4  移築前の店蔵の破風回り

 さて、今回移築した所沢の店蔵は、桟瓦葺き屋根に軒裏と破風板を漆喰で塗り籠めてありました。写真④は移築前の蔵の破風回りです。幅30㎝もの板の外側には、吹き付ける雨を少しでも外に逃すために化粧も兼ねた通称マユビキと呼ぶ仕事がされています。下地の幅広板の上に、巻き小舞と呼ぶ割り竹に棕櫚縄をぐるぐる巻きつけた部材を打ち付け、その上に漆喰を塗ります。雨が一番激しく当たる部分です。写真②の本芳我邸破風のように長い間に亀裂が入って剥落する場合もありますが、破風板の外面を勾配を付けて厚く塗ることで耐久性を上げる工夫がされています。
 移築後の工事では、元の店蔵の破風板をそのまま使って漆喰塗りとし、野地板と母屋は漆喰で塗り籠めて仕上げてあります。破風板の上にラスを張り軽量モルタルを塗った上にハンダで二段に襞を盛り上げ、出隅を整えてから土佐漆喰塗りで仕上げるという手順です。土佐漆喰の故郷・高知県東部では、蔵も住宅も破風板や軒裏は全て土佐漆喰で塗り籠められ、たとえ台風の雨が下から吹き付けても、ちょっとのことでは漏りません。
 破風板もハチマキも漆喰塗りは壁と瓦屋根との取り合い部分は、土蔵の見せ場として左官職の力の入る部分です。鎧壁風に二段に盛り付けられた漆喰は、離れて見上げるとモダンな装飾にも見えます。この後に続く、海鼠壁・水切り瓦・江戸黒漆喰磨き壁・出隅漆喰彫刻などの華やかな仕上げの総合を、最上部の漆喰塗り破風板が引き締めているようにも感じられます。

写真5  ハンダで二段に盛り付け



写真6  出隅をスサ入り砂漆喰で補強

写真7  ハンダで中塗り



写真8  土佐漆喰金鏝押え仕上げ