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 2008/04/23~ 内部左官工事
現場リポートⅡ 神田の耐震補強工事

□現場報告
  ビルに囲まれた都心で、築46年の木造住宅の耐震補強工事に携わっています。住み慣れた場所で、直しながら代々住み継いでいくことの価値が注目されている時代です。リフォーム工事の内容を紹介しながら、安心して暮せる住環境を考えてみたいと思います。




写真① 塗り壁下地の石膏ラスボード。


 耐震補強工事の目的は、構造的にある程度以上の強度を持ち合わせる耐震要素がバランスよく配置されるように、建物全体あるいは部分的に手を加えることにあります。ここで言う耐震要素とは、柱や梁などの軸組みが変形しないように働くもので、変形しにくい三角形の軸組みを作るための斜め筋交い、軸組みの間にそっくり嵌め込む構造用合板やボードやパネルを指すことが一般的です。建築基準法には補強に使用する材料の断面や材質、厚みなどにより、さまざまな作り方の壁の強さが「壁倍率」という言葉で示されています。柱や梁などの骨組み自体を交換できればいいのですが、できない場合は既存の壁に補強材を打ち付けて強度のある壁にすることで、家全体のバランスをとるという方法になります。両側の隅の柱と柱の間にまったく壁のない今回の例のように道沿いの店舗や、間口の狭い敷地に作られた住宅の道路側の車庫などの場合、とにかく30㎝程度の幅の変形しにくい壁を隅柱に設けるだけでも補強になります。それも不可能であれば、両側の隅柱の開口部内側に新規の柱材を抱かせてボルトで締めるだけでも効果はあります。生命の安全との比較で考えれば、多少車の出入りが不自由になっても、店の間口が狭くなっても緊急に対策を考えることが必要だろうと考えます。

 さて、室内の壁は家族構成の変化などの理由により、間仕切り壁が取り払われたり、位置を変えられたりすることもあるので、外壁に受けた耐震要素ほど計算上は当てにはできません。しかし実際の地震時には、こまごまとした雑壁が耐震要素として効果を発揮することがわかっています。密集地の家づくりの場合、日当たりを考えて2階に壁の少ない居間・食堂を設け、1階に壁の多い個室や浴室を設ける設計は、耐震的な壁の量だけで考えれば効果的です。その際に、1、2階上下の壁の位置は、できるだけ一致させて設けることはとても大事ことです。2階に壁があったとしても直下に壁がなければ2階の壁を支えている梁に応力が集中することになりますが、真下に壁があれば力が下に伝わることで、梁の負担が少なくてすむからです。さらに、間仕切り壁の開口部上部にある小壁と呼ぶ下がり壁の存在も、計算には乗りませんが耐震要素として役に立ちます。

 今回の工事では、二階床を支えている間口方向の軽量鉄骨梁の上下に間仕切り壁をつくり、1階には新設のその壁と直交する方向に同様に間仕切り壁を設けました。壁の仕上げは、杉板張りと色土塗りですが、間柱に構造用合板を打ちつけてから杉板を張るか、同様に構造用合板下地に塗り壁下地としての石膏ラスボードを重ね張りしてから、内部左官仕上げを行いました。

 改修工事の内壁左官仕上げは、塗り厚を考えて下地を決めることがあります。竹小舞を掻いて荒壁を新規に付けることで塗り壁下地とすることは、当事務所の経験ではこれまで行ったことがなく、通常は7㎜厚の石膏ラスボードか12㎜厚の石膏平ボードを使います。孔の開いた石膏ラスボード下地なら、下塗り用プラスター・中塗り土押さえ・仕上げ土(漆喰)の本来の塗り重ね工法により、15~25㎜厚の塗り壁を仕上げることができます。一方、石膏平ボードの場合は薄塗りが原則で、接着剤を塗布してから石膏を下塗りし左官仕上げ材を塗り重ねて、総厚5~9㎜程度で仕上げます。最近では、石膏平ボードのつなぎ目にジョイントテープを張り、直に左官仕上げ材を塗って2~3㎜厚で仕上げる簡略型の材料も出回っていますが、ボードの合わせ目部分に必ず小ひびが入ります。壁の故障のことを考えると、ここまで安易に施工するのであれば、湿式工事ではなく乾式工事にして壁に紙を張った方が賢明な選択だと考えます。

 耐力壁としての構造用合板も左官下地としての石膏ボードも、改修工事には便利な建築材料ですが、リサイクルの点では問題があることがはっきりしています。純粋に木材や石膏を再利用することを考えても、合板に使用されている接着剤や分離困難な石膏ボードと仕上げ材などが、資源の循環を阻んでいます。燃やすかゴミとして埋めるしか処分方法がないのが現実ですが、埋められた石膏ボードが廃棄物処分場の硫酸塩還元細菌に代謝されて、硫化水素を発生させる環境問題をおこしています。ここまで考えると、やはり壁の下地は無垢の木を用いた木摺り下地しかないのか、と複雑な気持ちになります。今後も考察を続ける必要がある問題です。

 耐震補強を考えた改修工事と汚れた部分の張り替えや不便さを直すリフォームとは、基本的な考え方に差があります。工費や工期のことを考えれば、全てのリフォーム工事は耐震要素のバランスチェックから始めるべきだということが、なおざりにされることもあるのが現実でしょう。また、太い柱や梁で構成された伝統的なつくりの家が、現在の構造解析技術や法規制ではそのまま評価され難いという一面があることも、補強工事を難しくしている一面ではあります。

  安全性・健康性・快適性・利便性・経済性のどれも大事な要素ですが、緊急を要する耐震補強の工事にあっては、当然建物の安全最優先と考えるべきだと思います。






写真② 色土に藁スサと砂を混ぜて材料を作る。




写真③ 色土を下塗り・仕上げと重ねて塗る。




写真④ 金コテで撫でて平滑面をつくる。




写真⑤ 波消しコテでコテ後を消していく。




写真⑥ 仕上げた壁(柱左)と石膏下塗り(柱右)。