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 2008/04/15~ 外壁左官工事
現場リポートⅡ 神田の耐震補強工事

□現場報告
  ビルに囲まれた都心で、築46年の木造住宅の耐震補強工事に携わっています。住み慣れた場所で、直しながら代々住み継いでいくことの価値が注目されている時代です。リフォーム工事の内容を紹介しながら、安心して暮せる住環境を考えてみたいと思います。




写真① モルタル下地にハンダを塗りメッシュ伏せ込み


 モルタル塗りの外壁は防火性能の優れているために、都市部の準防火地域に指定された場所では、一時期ほとんど例外なく家の外壁がモルタル塗り一辺倒となったことがありました。ただ、木造建築の揺れと、硬いモルタルは馴染みが悪く、ラス下の板が薄かったり、ラスが軽量で張り方が雑だったりすると、窓隅などから大きな亀裂が入ったり、モルタルの剥離や落下まで進むことも見られました。伸縮性能のある樹脂系吹き付けタイルが仕上げ材として広まった理由の一つには、下地のモルタルに亀裂が入っても仕上げ材が伸び縮みすることで、表面に亀裂が現れなくて済むことにあったと考えています。反面、モルタルに亀裂が進んでも、表面上は発見できない危うさを見逃してはなりません。それまで、大壁仕上げとして多用されていた、リシン掻き落としなどの工法と比べて、モルタルを平らに押えておけば仕上げは吹き付け専門業者の仕事になり、工費も工期も圧縮できるために、町中の外壁が樹脂系吹き付けタイルになった訳です。ただ、この仕上げ材は、劣化により10年から15年に一度、足場を掛けて吹き付けのやり直しを続けることが求められます。

 改築工事前のこの家の外壁は、9㎜厚杉ラス下・アスファルトフェルト・モルタル20㎜厚塗り・樹脂系吹き付け仕上げ材、という構成で作られていました。瓦や樋や開口部の損傷に比べて、外壁は亀裂があっても表面仕上げの傷みは少ない状態でした。これは、1962年の新築以来吹き付け工事をやり直してきた結果だと思われます。ただ、樹脂系吹き付け材仕上げは、広い面積を均質に安く仕上げるには向いていますが、大気中の埃や壁を伝う雨の汚れなどにより、時間とともに一様に陳腐化します。このことは、同じモルタル下地でも数十年経過したリシン掻き落とし仕上げや、色モルタル引き摺り仕上げと比較すると歴然としています。リシンや色モルタルの材料は砕いた石や砂であるため多少の雨水は浸透し、ざらざらした表面には埃も付着するのですが、汚れ方にも違いと味わいがあるのです。

 今回の改修で採用した外壁の仕様は、12㎜厚杉ラス下・アスファルトフェルト・軽量モルタル20㎜厚塗り・土佐漆喰鎧仕上げです。漆喰塗りの大壁の納まりとして高知県で完成されたものですが、当事務所では20年近く前から外壁の標準仕様として継続してきた工法です。モルタル下地の漆喰系仕上げ工法としては、亀裂防止、水切れの良さ、納まりの美しさなどの点で、一番優れた技法だと考えます。高知県の安芸市・室戸市などでは、現在でも土佐漆喰鎧仕上げや水切り瓦付きの美しい家並みを見ることができます。もっと一般に広まってほしいものです。

 さて、実際の作業工程は次のような順番に進められていきます。
① 軽量モルタル下塗り、ホウキで荒らし目を付ける。
② はんだ(土佐漆喰+中塗り土+藁すさ)を6㎜塗る。
③ 割れ止めのナイロンメッシュを全体に伏せ込み押えてホウキ目をつける。
④ 鎧の間隔に合わせて水糸を張り、基準墨を打つ。
⑤ 定規を間隔ごとに釘で止めていく。
⑥ 定規の上隅に砂漆喰を塗り見切りを立てる。
⑦ はんだか砂漆喰で角段ごとに斜めに鎧壁下地を塗る。
⑧ 鎧下地を抑え、刷毛引きしておく。
⑨ 定規をはずす。
⑩ 上の段から順に土佐漆喰を塗る。
⑪ 土佐漆喰を金コテでしっかり押えていく。
⑫ 鎧壁の下端に定規を当てて直線を出す。
⑬ 面取りコテを鎧の出隅部分に当てて面を付けておく。
⑭ 建物の出隅部分に定規を当てて角測り(かどばかり)の砂漆喰を付ける。
⑮ 建物の次の外壁を塗る作業に移る。
⑯ 一通り仕上げ塗りが終了したら、雨で汚れないように足場の道板を立てて離しておく。

 慣れない人にとっては煩雑な工程に見えますが、一つ一つ意味があり手を抜けない作業の連続となります。土佐漆喰と中塗り土を混ぜたハンダをモルタルの上に塗ることで、木造の軸組の動きがモルタルに伝わった後に、柔らかいハンダ層が揺れのダンパーの役割を果たすことで、最終仕上げの土佐漆喰に亀裂が入ることを防いでいます。定規の上に塗る砂漆喰塗りの見切り立ての工程も重要で、鎧壁の格段の下にたとえ水平方向の亀裂が入ったとしても、水に強い材料を詰めておくことで室内への漏水を防ぐ効果がある訳です。

 人類の開発したプラスチック、ウレタン、ナイロンなどの素材は、ムクの板や漆や絹にはない優れた点があり、我々の生活の大きな部分は人工材料に依存しています。安くて、見た目が綺麗で、丈夫で、軽くて、掃除が楽などの良さが受けて、身の回りのほんどの材料や道具が工業製品で覆い尽されていくのではないかと感じた時もありました。雨ざらしにしておいても腐らないし、カビも生えない良さだけを喜んで見ていたようで、材料にカビも腐食菌も寄せ付けない猛毒が混じっていることには気がついてはいませんでした。結局、一度手にした便利さを手放すには、新建材を多用した建築で人が病気になったり死んだりする不幸な経験を共有する必要があったようです。

  自然素材は、その材料作りにも工法にも手間と時間が掛かります。だから、早く安くの工法に変わっていった訳です。しかしようやく、長い間丁寧に扱えば始めよりももっといい味わいになること、手を入れれば元の状態に回復できること、安全に処分できることなど、再び自然素材の優れた点が理解されてきたようです。毎日生活する住まいは何より安全で、作り上げるまでは時間と手間の掛かるやり方であったとしても、手を加えながら大事に使いたいと考えている人が増えてきました。

 目先の変わる興奮を選ぶ代わりに、三代は変わらない景観を生み出していく時代です。





写真② 格段ごとに鎧壁の下塗りを終え定規を外す




写真③ 土佐漆喰で仕上げ塗りを行う




写真④ 金コテで強く押さえていく




写真⑤ 鎧壁の下端に定規を当てて直線を出す




写真⑥ 出隅部分に定規を当てて角測り塗りを行う




写真⑦ 完成直後の黄味色が残る状態