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 2008/03/01~ 大工造作工事
現場リポートⅡ 神田の耐震補強工事

□現場報告
  ビルに囲まれた都心で、築46年の木造住宅の耐震補強工事に携わっています。住み慣れた場所で、直しながら代々住み継いでいくことの価値が注目されている時代です。リフォーム工事の内容を紹介しながら、安心して暮せる住環境を考えてみたいと思います。




写真①  105㎜角の元の柱に新規の柱を補強する。


 大工工事は新築工事であれば、加工場での墨付け刻み→現場での建て方→屋根野地板張り→外壁下地材取り付け→アルミサッシ取り付け→ 床板張り→内部造作工事→外部造作工事といった順序で進められることが一般的です。一方、構造材を残しながらの耐震補強工事の場合は 、耐震補強の設計方針に従って軸組みや床組みの補強をおおむね終了して後も、枠や敷居・鴨居などの造作工事に関係する部分で納まりを 考えながら補強工事が続くことが多いようです。

 今回の工事のように1階にほとんど柱がなくて、あまりに細い部材だけで組み上げられてる現場では、工事中に地震がきたら瞬時にして倒壊 してしまう危険があるため、解体終了後はまず仮筋交いを入れられるだけ入れて揺れを止める対策をしました。ひれから、土台・柱・梁な どの主な構造部材で交換が必要と判断した部材は順次取り替えながら骨組みを固め、新規の柱や間仕切り壁を設け、外壁と2階床下に構造用 合板が張られる段階になるとほとんど揺れなくなります。ここまでくると、ひとまず安心です。しかし、105㎜角の元の柱に梁背30㎝の新規 の梁材が取り付けば、梁は丈夫になっても梁と柱の取り合い部分に力が掛かり元の柱がボキッと折れてしまう心配が生まれます。柱を折れ ないようにするには、写真①のように元の柱に新規の柱材を抱かせてボルトを締める、新たな補強が必要です。部材を大きくして強くすれ ば、地震や台風などの外力も大きい部材に掛かることになり、取り付いている周囲の部材の見直しを再度行うことになり、耐震補強はバラ ンスの問題という見方もできます。

 元の家は天井が張られていましたが、工事途中で残した古いマツの太鼓梁を表して見せる提案が建て主からありました。2階の空間の広がり は気持ちがいいもので、新築工事の家では2階に天井を張る設計をしていないので、この提案を受け入れることにしました。しかし、末口が 15㎝程度の二本の松梁を受けている梁は105㎜角で、棟木からの釣り束でなんとかもっていたと考えられる頼りない納まりです。小屋組の揺 れを押えるためにも、細い梁受け材と上部の棟木をつなぐ壁下地材に構造用合板を張って松梁を受けることにしました。最終的に壁が塗ら れて仕上がってしまえば、新しくなった住まいに46年の時間の重みを感じさせる黒い松梁を残してよかったと喜ばれますが、工事途中での 構造的な判断はやはり重要です。

 物持ちの良いことが最近の日本人全般の特徴らしいのですが、長い間一つの場所に生活していれば、自然とモノは増えて溜まっていくもの です。引越しや建築工事は自分たちの所持品を整理する格好の機会となります。それでも、捨てられない家族に幾度も触れてきました。足 が不自由なので部屋の一部を上げて端に座れるようにしてほしいとの要望に応えるために、板張りの部屋から約40㎝上げて堀コタツ付きの 畳敷き茶の間を計画しました。これだけ段差が生まれると、段差を利用して引き出しを作ることができます。横に三つ並んだ幅80㎝深さ25 ㎝奥行き80㎝の引き出しは、かなりのモノを入れられそうです。

 外壁の構造と仕上げは、ラス(左官下地の金網)にモルタルを塗った後に土佐漆喰の鎧仕上げとするものです。建物本体の外壁を全て構造用 合板で張ることで変形し難い構造体としましたが、この現場では一つ外側に空気層を設けて杉板の左官下地を張りました。合板は変形しに くい点が優れていますが、合板にラスを張りモルタルを塗ると、合板の合わせ目に亀裂が生まれることを当事務所でも経験しています。土 佐漆喰鎧仕上げのように漏水対策が完成された工法ならいざ知らず、モルタルの亀裂は外壁下地の劣化と室内への漏水の原因ともなります 。杉のラス下材を受ける縦横の胴縁材の隙間を壁最下部から入った空気が、軒下に開けた換気孔から抜ける構造としました。これで外側から雨や湿気が合板に当たって腐食することをかなり避けられるはずです。

 造作材に用いる材料は、床・壁・天井などに張る板と、敷居・鴨居・縦枠などの内法材と、階段周りの段板やササラ桁材などです。構造材 に天竜杉葉枯らし天然乾燥材を用いたので、板と造作材も同じ天竜杉で統一しました。床板には15㎜厚の天竜杉源平特一等材を、壁と天井には12㎜厚の天竜杉源平特一等材を使用しました。板は赤い芯材と白い辺材の混じった通称源平材の節有り材の値段を基準にすると、木の中心の赤み材だけで揃えた節有り材は約3割高く、節のない無地材となるとさらに3割以上高くなります。使用目的に応じて、素材の等級を 決めて発注することが大事です。経済的な源平特一等の赤白節有り材でも、同材を大量に仕入れることで現場で品質を選り分けて張ることができ、結果として十分満足の行く使い方ができます。

  内法材は部材の幅をある程度決めることで、多種多様な寸面の材料を発注しなくて済みます。今回の現場では、天竜杉源平特一等材、長さ 4,0m、幅145㎜と135㎜、厚み30㎜を約170枚発注して家一件の造作材として使い廻しました。静岡県のこの製材所で扱う30㎜厚の材は、もと もと本実加工の板材用として用意したものですが、加工せずに提供していただきました。階段材だけは、天竜檜葉枯らし天然乾燥材の48㎜厚の材を使用しました。

 造作工事は構造材とは違った大工の腕の見せ所で、納まりや部材寸法の大きさが大きく影響してきます。重苦しくない軽快な表現には、設 計上の配慮が大事なことは言うまでもありません。ただ同時に、構造材と板材と造作材をある樹種の範囲で揃えることが、室内の統一感に 影響を及ぼすものと考えます。柱と梁が檜なら、板や造作材はヒノキ・ヒバ・サワラなどのおとなしい材料を使い、構造材が杉なら造作材 も杉にしたほうが自然に見えます。





写真②  松丸太を受ける梁上部の壁を補強する。




写真③  高さを上げた茶の間の床組み。




写真④  写真右側の壁は左官下地の杉板張り。




写真⑤  杉材中心の玄関と階段周りの造作。




写真⑥  目隠しと防犯目的に格子で囲ったベランダ。