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 2007/11/20~ 畳工事
■ 現場リポート

東京都三鷹市で、Tさんの住いの建築工事が始まりました。
このコーナーでは、当事務所の仕事の進め方を知っていただくために、工事の工程を進行順に説明していきたいと思います。なお、竣工は2007年10月を予定しています。





畳床の上に表を広げてクセを取ります

 仲間の畳職人が地元の小学校で畳の話しをした時、試しに自分の家に畳がない子供達に手を上げてもらったところ、何と三人に一人は畳と無縁の生活を続けているという現実がわかり驚いた、という話を聞いたことがあります。かつて、日本家屋の床の仕上げ材といえば、無垢の板張りか畳敷きと相場は決まっていました。しかし、プラスチックタイル・クッションフロアなど、石油を原材料として作られた建築材料が身の回りを覆っている今は、畳に使われる畳床も8割近くが藁ではなくて、ポリスチレンフォームと呼ぶ石油製品のボードが用いられています。畳=自然素材という簡単な理解はもう通用しないどころか、反対に無垢の縁甲板や藁床の畳は、体に優しい「自然素材」として、住宅雑誌が特集を組んで新鮮な感覚で取り上げる時代なのです。石油製品の建材について、あれこれ言うつもりはないのですが、ほとんど1軒に一間しか残らなくなった畳敷の部屋に使う畳くらい、素性のわかる材料を使いたいものだと、よく仲間の畳店と話をします。

 では、本来の畳に使われる主な材料とは何かというと、稲藁を重ねて糸を縫った藁床、イグサを織った畳表、綿やナイロンを使った畳縁の三つです。藁床はまだ各地で作られていますが、イグサは岡山県・広島県・福岡県・佐賀県・熊本県・高知県などで生産され、畳縁は岡山県・兵庫県などに工場があります。町の畳店は、材料問屋を通じて各地の生産者から素材を集めて、一枚の畳を縫い合わせて製品を作ります。ただ、稲もイグサも農家が田んぼでつくるので、使用している農薬の種類や残留農薬までこだわると、材料問屋との付き合いだけでは突っ込んだ話しができません。結果として、畳職と藁床生産工場やイグサ生産農家との直の相談や取引が始まることになり、お互いの思いや注文を交換することで、質が高くて安心できる材料で作られた畳の提供を目指すことになります。

 仲間の加藤畳店では、畳表として熊本県の特定のイグサ栽培農家が作る「無染土表」を使うことを、住み手に薦めています。イグサは長いものほど使える部分が多いので高級な材なのですが、不ぞろいのイグサでも粘土を溶かした泥水に漬ける工程を経ることにより、均質な青さに変えることができます。泥染め工程は、畳表の原料となるイグサに欠かせないものとなっています。天然の粘土に漬けるだけなら問題はないのですが、もっと綺麗な青々した畳に変えるために、毒性の強いマカライトグリーンという重金属を混ぜることがとあるとも聞きます。本来、イグサそのものの品質を上げていけば、泥染め工程を経ることなしに青々としたイグサを用いた畳表を作れる訳です。いつの時代でも熱意のある人はいるのです。本物を求める声に答えようと、熊本県では田んぼの土の改良から初めて、減農薬農法でイグサを作り始めた農家が現れ、今もがんばっています。一般の畳表は、使用前に一度絞ったタオルで表面を拭いてから使ったほうがいいのですが、無染土表は自然のイグサの色と艶があり、靴下を履いて歩くとすべるほどつるつるしています。数年前に自宅の畳表をこのイグサを使った表に変えましたが、品質の高さを目と足の裏で実感しています。しかも丈夫です。

 畳表も畳床も以前は手で織り縫って作っていましたが、現在は特別の超高級畳を除けば、機械による製品作りがほとんどです。その代わり、綾織り・市松織り・目積織りなど、以前は思いもよらない織り方の表ができるようになっています。畳の目数を頼りに、据わる場所やお道具を置く位置を確認するお茶の世界では、以前からある普通の織り方の表でなくては始まりませんが、これだけ種類が豊富になると、畳という素材がいわゆる座敷から飛び出て、もっと自由に使われていくと思います。素足で歩く生活に限れば、吸湿性・断熱性・感触・美しさなどの点で、高温多湿なこの国では畳に勝る床材はありません。しかも、5~6年ごとに表を変えれば、そのたびに新鮮さを味わうことができます。この点は障子紙の張替えとよく似ていて、必要な家の維持管理が楽しみにもなるように考えた先人の知恵かも知れません。

 畳職は、木製建具職と同様に典型的な居職(現場でなく自分の工場で主に製作を続ける職種のこと)です。現場に出かけるのは、採寸と敷きこみの二回です。建て主と畳職の打ち合わせは、採寸の時に行います。畳表の種類・畳縁の種類、床の材料の確認と、一枚あたりの畳の値段の提示と承認が主な内容です。通常、町の畳店におよその金額を伝えれば、畳床や表を選んで納めてくれるのですが、毎度毎度、表と縁と床の材料と品質の確認を直接住み手には行ってもらっています。そして、畳職も十分に答えられるだけの熱意と見識と腕を持ち合わせています。(当サイトのリンクから加藤畳店のサイトを開いてみてください。きっと、参考になるはずです。http://www.kato-tatami.jp/)

 畳を納める日は、引越しの前日が多いようです。2007年1月の解体工事から始めた、この現場も2007年12月初旬に畳を入れて、引越しが完了しました。木と土と紙と草で作られた自然素材の家は、20年から30年すると、ずっといい味わいになっているものと想像します。

 ※畳は空気中の水分をよく吸い取ってくれ、部屋が乾燥したら吐き出しているので、湿度の調整機能があります。一方で、微生物のカビは、温度と湿度と栄養素と酸素があれば、どこにでも発生します。畳がカビにとって生育しやすい場所になるかどうかは、部屋の空気の入れ替えという、この一点に掛かっています。カビとの共生が好きでなければ、朝起きたら部屋の窓を開けてほしい、というのが畳屋の言い分です。さらに、フケや髪の毛や食べかすは、ダニの餌になります。畳がダニに温床といわれたこともありましたが、NHKの科学番組の実験では、二週間毎日掃除機を丁寧に掛け続ければ、ほとんどのダニを死滅させることができるそうです。カビやダニにとっても優しい環境をつくるかどうかは、その家の管理人の考え方次第であり、畳に落ち度はありません。







畳の短辺に表を縫い合わせます




長辺方向の床に合わせて表を切ります




長辺方向に畳縁を取り付けます




杉の荒床に番付に従い畳を並べます




足で踏んで畳を馴染ませます




畳下にかいものを入れて高さを微調整