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 2007/9/20~ 木製建具工事
■ 現場リポート

東京都三鷹市で、Tさんの住いの建築工事が始まりました。
このコーナーでは、当事務所の仕事の進め方を知っていただくために、工事の工程を進行順に説明していきたいと思います。なお、竣工は2007年10月を予定しています。





資材置き場で使用する材を選びます

 現代の木造住宅の窓といえばアルミサッシが一般的ですが、玄関や居間の外部開口部に木製建具を取り付けたいという希望は根強いものがあります。アルミサッシの機密性や防水性は認めるにしても、木製建具には、アルミにはない自然素材の持つ温かみ・風合いが感じられ、枠材に結露することもありません。複層・防犯・遮熱など高性能ガラスと組み合わせて用いることで性能面でも満足が得られるようになってきました。そして何より、木材の製作過程で消費するエネルギーはアルミの数十分の一であり、材料を国内で再生産することが可能であることが決定的に違っています。ガラス工事の項で述べたとおり、今後は木製枠と一体に開発した建具が増えていくことと思います。
 
 外部の木製建具が少なくなった原因は大きく二つあり、一つは住宅の大量生産を目的とした施工しやすく均質なアルミ枠にガラスを入れた工業製品の多用であり、もう一つは、密集都市の不燃化を目的とした防火地域・準防火地域内の建物の防火性能の確保という法的要求です。網入りガラスを入れたアルミ製窓の実際の防火性能に疑問視する声があるのは前述のとおりですが、防火指定のない地域や、防火・準防火指定内でも延焼の恐れのある範囲以外であれば木製建具の選択が可能です。今回の工事は、一階広間南面の建具と玄関戸を木製引戸で設計しました。玄関には腰板付格子引き違い戸を、広間には三間の柱間を全開とするために、片引きの障子・ガラス戸・網戸・雨戸を戸袋に納める仕様にしました。
 
 建具の材質が何であれ、建具を柱間に設ける目的は、外部から内部に通過させたいモノのみを通過させるフィルター機能にあります。ここでいうモノとは、光・風・雨・冷気・熱気・視線・虫・小動物・泥棒などが考えられます。障子は光を通し視線を遮ります。ガラス戸は光と視線を通し風・雨・虫などを遮ります。網戸は光と風を通し虫や小動物の侵入を防ぎます。雨戸は光・風・雨・冷気・熱気・視線を遮り、泥棒除けにも効果があります。三間全開とするには幅一間の建具をそれぞれ三本ずつ製作して、全部で12本吊り込む必要があります。この構成の建具を一つの開口部に吊り込む理由は、様々なモノを一日の時間ごと、あるいは季節ごとに選択できることが、より快適な生活に繋がると考えるからです。
 
 広間の南側には広大な木製デッキがあり、春から秋には建具を全部戸袋に収納して外と一体となった開放的な生活ができます。冬は明かりと太陽の直射光のみを入れたいはずです。温度や湿度や風などの状態を建具操作をこまめに行うことで、機械に頼らない生活を先人達は続けてきたはずで、現代の我々も受け継いでいく価値が十分ある住まい方だと思います。

 さて、建具一枚の見込み寸法(建具の厚み)は、障子と網戸を30mm、雨戸を35mm、複層ガラス入りのガラス戸を40mmとしましたが、これだけの本数があると、柱の外側に設けたガラス戸・網戸・雨戸用の敷居と鴨居の幅は35cmにもなります。各建具間の隙間はわずか3mmですが、とても軽快に開け閉めすることができる理由は、木製建具が細くても狂いの少ない素直な材料で構成されているからです。今回の建具に使用した材料はスギです。木の年輪に直角の方向に製材する柾目取りという方法により挽かれた建具材は、材の表も裏もほぼ平行に木目が並び木の裏表で収縮の差がありません。木目の平行線が一番美しく現れる木材はスギですが、割り箸でも下駄でも素木(しらき)の柾目材を愛でる感性は、繊細な縦縞文様を粋と考える日本人の美意識にも繋がっています。モノの機能だけでは満足できない我々にとって、木製建具が根強い支持を受ける理由は、人間の手では作りえない自然素材の美を感じながら生活したいと考える人がまだまだ少なくないからでしょう。

建具製作取り付けに当たっては、通常次のような工程を経て作業が進みます。

① 設計段階で、部材寸法・使用材種・材料の程度・ガラスや紙の選択などを、担当する建具職と打ち合わせて見積もりを依頼します。

② 現場で木工事がある程度進んだ段階で、柱間や敷居・鴨居、ドア枠などの内法寸法を実測します。この時、建て主の家族と建具職とで、改めて製作する建具の種類・材質・程度などを確認します。

③ 建具職の加工場での製作が始まります。ストックしてある乾燥した材の中から使用する材料を選び、必要長さと断面に木取り、組み立て、木目を生かして浮造りなどの仕上げを施すこともあります。

④ 完成した建具を現場に運び、それぞれの部位に合わせて建具の高さと幅を削る調整作業を行い、すべり具合を確認します。取っ手や錠などはこの時現場で個々の建具に取り付けます。

⑤ 半年から一年経過してから建具の様子を点検し、反りや狂いを調整します。自然の素材でできている木製建具は天候の変化や室内の湿度によって一年を通じて微妙に動くものです。

 古い建具が商品として流通していることを見てもわかるように、丁寧に作られた木製建具は長い間使用することができるばかりでなく味わいも増してきます。建具の意匠やほんの数ミリの部材寸法の変化によって室内の雰囲気は違ったものになります。カタログの中から完成品を選んで組み立てるのではなく、住まいという文化を作り手と一緒に形にしていくこと、維持管理も含めて末永い付き合いを大事にすることは、木製建具に限らず、住み手と作り手の関わり方の本来の姿であろうと考えています。
 
 



雨戸の框と格子を組んだ状態



完成品を現場に搬入します



間隔を決めて真鋳レールを取り付けます



寸法の微調整のための鉋掛け作業



外側から雨戸・網戸・ガラス戸



玄関戸と雨戸を吊り込んだ状態