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 2007/08/06 板金屋根工事
■ 現場リポート

東京都三鷹市で、Tさんの住いの建築工事が始まりました。
このコーナーでは、当事務所の仕事の進め方を知っていただくために、工事の工程を進行順に説明していきたいと思います。なお、竣工は2007年10月を予定しています。





鋏・掴み・鏨などの道具を用いて、はぜを作る


 以前、京都市内で、「万、雨漏れ相談」という看板を見かけたことがあります。家全体を完璧にシールして、気密性能を上げようとは考えないのが伝統的な木造建築です。時には屋根や壁からの雨水の進入もあります。雨漏れ対策を仕事にしている人が京都にはいるものだと考えながらよく見ると、看板の下には○○板金と書かれてあったので、町場の板金屋のものとわかり納得しました。

 板金仕事とは、鉄や銅、ステンレスなどの金属薄板を成形して、雨が建物内部に入らないように所定の箇所に取り付ける工事をいいます。取り付ける場所や広さによって、水切り、雨押さえ、小庇、金属屋根等呼び方は変わりますが、建物に掛かった雨を建物の外に早く流してしまう為の部品という点では共通しています。

 板金工の扱う金属板は通常、0.3~0.35ミリ程度の厚みで、幅は 30センチから1メートルの範囲の材料を扱うために、広い面積を葺くときには、「はぜ」と呼ぶ重ね合わせ部分を作った部品を組み合わせて仕上げていきます。曲面屋根などの場合は、工場で製品加工を行い現場取り付けの作業となりますが、一般には、昔から使われてきた鋏・掴み・鏨(たがね)などの道具を用いて板金を曲げ、叩いて成形する手仕事が多く残る仕事です。瓦工が、屋根の各部位ごとに応じた数多くの役物を組み合わせることを仕事にしているのに比べると、板金工は、場所ごとに差し金を当てて寸法を取り、下地に合わせた部品を自ら揃えて仕上げていく点が異なります。

 板金工事で使用する材料には、銅・カラーステンレス・亜鉛アルミ合金メッキ鋼板(ガルバリウム鋼板)などがあります。通称、カラー鉄板と呼ばれる材料も、現在では亜鉛アルミ合金メッキ鋼板に着色したものがほとんどなので、当事務所でもよく利用します。だだし、内樋などハンダ付けが必要な場所では、カラーステンレスを用います。

 さて、雨の多いこの国では、屋根仕事を専門とする瓦工も板金工も、水の性質と扱いには精通しています。
・ 水は、高い所から低い所へと流れる。
・ 部材どうしのわずかな隙間から水は吸い上げられる。(毛 細管現象)
・ 内部に入り込んだ水は出口がなければそこに溜まって外 には出ない。
・ 風の影響を受けて雨は横から、時には下から吹き付ける。 当たり前と思われることばかりですが、雨漏りの原因のほとんどは、水の特性に対して不適切な処置がされたために発生すると考えても間違いはありません。金属板葺き工事の要といわれる、はぜの加工も下はぜの大きさを上はぜの寸法より3~6ミリ大きくすることで、毛細管現象による水の吸い上げを防ぐ配慮がされています。遠くから見ると一枚の平らな薄板のように見える板金屋根も、組み合わされた部品どうしがまったく隙間なく重なっている訳ではありません。

 板金工事の水に対する基本的な姿勢は、早く水を逃してあげるというものです。屋根・壁・窓など、外部に面している限り、雨がまったく掛からないということはありません。雨を受け付けないというより、掛かった雨水をできるだけ自然に建物から遠ざける道筋を作ってあげるのが、板金工事の役割です。

 板金工事は、熱によって部材自体も伸縮するので、部材の合わせ目には動きを止めない、逃げがあります。多少は水を吸い上げることがあったとしても、最終的には雨を外に逃す工夫がされています。ただ最近の建物を見ていると、まるで宇宙船を作るようなつもりで家全体を完璧にシールすることで、雨水に対しているように感じます。しかし、防水工事の万能材として重宝に利用されるコーキング材も、壁の下端と水切りとの間に誤った打ち方をすると、壁の間に入った雨水の出所を塞ぐ原因をつくることになり、溜まった水は屋内へと漏水することになります。木造建築に限らず、建物は揺れて動きます。長寿命の建築を目指すとき、決して切れないシール材を開発してその性能に頼りきるよりは、建物に被害を与えない程度の少々の雨水を受け入れる一方で、大きな水はさっと流れてもらうという考え方のほうがずっと自然なあり方でしょう。

 板金工事のもう一つ大事に仕事に雨樋がありますが、樋を銅で作りたいという依頼を受けることが時々あります。現在では、雨樋の各種部品も銅の既製品が用意されていますが、板金工にとって軒先の樋仕事は細工を施して腕を競い合う見せ場でした。板金工には、安物仕事の代名詞として自らをトタン屋と蔑むことがある一方で、銅板細工の技を引き継ぐ錺工としての自負があります。魚の鮟鱇に似ているところから、一般にアンコーと呼ばれる横樋と竪樋を繋ぐ呼び樋、各種の集水器、四隅で大きく反りあがった軒に合わせて形を作るてり樋の仕事などは、板金職人の手仕事の粋ともいえるものです。

 しかし、雨樋を銅で作った場合、他の板金仕事も全て銅板で納めないと建物の釣り合いが取れないために、工事費の差額は大きく開きます。今回の工事でも、亜鉛アルミ合金メッキ着色鋼板と塩化ビニール製の樋と、銅版葺きと銅製品雨樋との見積もり比較を工事途中で行いました。結果は、最近の金属製品の高騰ぶりも影響して、3倍以上銅のほうが高いというものでした。通常でも、2倍以上の差額は生じます。結果として、当初の計画で工事を行うことになりました。




防水紙の上に加工した板金を留めていく



平葺き施工途中の庇



浴室屋根 周囲の捨唐草と瓦棒心木



同屋根 溝板・瓦棒キャップ・桟鼻施工後



北側下野水上の瓦雨押さえ板金仕事


塩化ビニル製半月型雨樋