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 2007/07/11 外壁荒壁付け
■ 現場リポート

東京都三鷹市で、Tさんの住いの建築工事が始まりました。
このコーナーでは、当事務所の仕事の進め方を知っていただくために、工事の工程を進行順に説明していきたいと思います。なお、竣工は2007年10月を予定しています。





3ケ月寝かした土に藁スサを加えて練り直す


 壁の竹小舞掻きが終了したら、荒壁付けの作業を行います。小舞竹の片方からまず塗り、硬化の具合を見て裏からまた土を付けます。荒壁の塗り厚はおよそ4cmです。その後、斑直し塗り、中塗り、仕上げ塗りなどを施しますが、内壁・外壁共に塗り壁仕上げとした場合は約8cm厚の壁が出来上がります。この厚みの壁が軸組み構法の柱と横架材の間に作られると、耐力壁としての特性を発揮して、変形はするが倒れにくい粘りのある木造建築が実現します。

  土壁の土は、基礎工事が始まる時期には準備を始めます。関東地方の場合は、荒木田土と呼ばれる粘土を昔から使用してきましたが、現在荒木田土を左官材料として採掘している場所がないため、当事務所では埼玉県児玉町の瓦製造業者に粘土を譲ってもらい、壁土として使用しています。 延べ床面積が30~40坪程度の住宅の外壁を土壁にするには、2トントラック2台分の粘土を用意します。現場に3坪程度の場所があれば、そこを土の水合わせ場として、粘土に藁スサ(稲藁を6cm程度の長さにきった壁の繋ぎ材)を加え、水を掛けてから耕運機などで粘土と藁を馴染ませます。藁スサは荒木田土1立方メートルに対して60~70㎏加えます。作業終了後にシートを被せて、2~3ヶ月放置し、藁を十分発酵させて藁の繊維質が土の粒子に十分絡みあった状態をつくります。さらに、荒壁を塗る直前にもう一度藁スサを加えて練り直した材料を使います。現場に水合せ場の余裕がない場合は、他の場所で事前に練っておいた泥をフネに入れ、トラックに積んで現場まで運んで使います。

  荒壁付けの時には、大勢の人が集まり一気に仕事を進めていきます。水合せ場の泥を小舞壁近くに置いたフネに運ぶ係、その泥をヘラの付いた才取り棒で掬い取り塗り手に渡す係、そしてコテ板に載せた泥を小舞下地に付けていく係の3人の連携作業です。3人一組のチームで一日に約20坪こなすのが目標ですが、慣れないと大変な重労働です。 荒壁表塗りが終わった段階で、小舞竹の裏に突き出た泥が柔らかいうちにコテで頭を押えておきます。こうすることで、表から塗った泥が鉤型となり小舞にしっかり噛み付いて離れにくくなる訳です。表塗りの泥がある程度固まったら、水気があるうちに今度は小舞の裏側から塗ることで、竹小舞が空気に触れるのを防ぎ、合わせて壁の塗り厚を増して丈夫な土壁を作ります。裏返し塗りの施工時期については、表塗りの土が完全に乾燥してから塗るという地方もありますが、土と土の付着性能を考えると、表塗りの水気があるうちに裏も付けて同時に乾燥硬化させる方が、一枚の荒壁として強度が出るようです。事実、昨年ある大学の試験場で行われた土塗り壁を持つ伝統構法の架構体の実大実験では、実験体製作に協力した加藤左官の土壁が架構の変形が進んでも、荒壁の表塗りと裏返し塗りの剥離が見られず、土壁の粘り強さが実証されました。
 
 荒壁は、夏場なら2ケ月もあれば乾燥します。この間にも、大工さんの造作工事が着々と進行していくわけで、外壁サイディング張り・内壁ボード下地紙張りの乾式工法と比べても、水を使う湿式工事にしたから極端に工期が伸びるわけではありません。ただ、竹小舞土壁漆喰塗りを求める家は、柱や梁を現しにする真壁構造であることが多いため、左官工事ばかりでなく木工事・板金工事・建具工事など工事全般について、それぞれの取り合いを考えながら、じっくり時間をかけて丁寧な仕事をしていくことが求められます。その結果として、30~40坪程度の住宅を完成させるのに、工事期間が6ケ月から8ケ月は掛かるわけです。

  ※ 長い間方々の左官職の荒壁を見ていると、粘土に混ぜる藁スサの量と寝かせた期間の長さが、丈夫な土壁づくりにどれだけ重要かがわかってきます。藁スサは植物なので、発酵するとセルロースとリグニンに分解されて泥に混じります。セルロースは繊維として土の粒子を繋ぐのに役立ち、一方のリグニンは糊のようなコロイド状となり、土の粒子の小穴を塞いで余分な水の吸収を防ぐ役割を果たすと考えられています。十分なスサを混ぜて長い間寝かせた土でつくった泥壁の家は、洪水で床上浸水になった後でも流れずにしっかり残っていたと、古老の左官職から聞いたこともあります。 

  逆に藁スサも少なく混ぜ合わせた直後に塗られた荒壁は、大きくひび割れて、たたけば剥離するようにも見えます。藁スサの量と水合せ期間の長さは、土の圧縮強度を増しはしないという実大実験の結果報告もありますが、土壁本来の特性である割れにくさと粘り強さを増すことは事実です。

  関東では、泥に藁スサを混ぜて現場まで運んでくれる通称泥コン業者はいません。現場で使用する荒壁土は自分たちで練ってつくることになります。稲刈りにコンバインが使われ、刈ったそばから藁を細かく切り刻んで田んぼに投げ出していく米づくりが主流になった今、藁スサ用の稲藁の確保も容易ではありません。荒壁用の粘土よりも、藁スサの単価の方が高いという話も聞きます。しかし、意識さえ高ければ、十分な量の藁スサを加えたり、たっぷり時間をかけて寝かせてから荒壁を塗ることができます。表には見えにくい部分でありますが、左官職の仕事に対しての良心として、とても大事なことだと考えています。



藁が溶けて繊維が土の粒子に十分に絡んだ状態



才取り棒に泥を載せて塗り手に配る



泥をしっかりと小舞に塗りこむ荒壁表塗り作業



荒壁の土を小舞の裏から押えておく裏撫で



小舞下地の裏側塗る裏返し塗りが終了した状態