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 2008/05/01~ 木製格子の取り付け
現場リポートⅡ 神田の耐震補強工事

□現場報告
  ビルに囲まれた都心で、築46年の木造住宅の耐震補強工事に携わっています。住み慣れた場所で、直しながら代々住み継いでいくことの価値が注目されている時代です。リフォーム工事の内容を紹介しながら、安心して暮せる住環境を考えてみたいと思います。




写真1  耐震改修を終えた建物全景。


 今回の改修工事の最終段階で、外部に面した全ての窓に木製の格子を取り付けました。格子の役割の第一は、もちろん外部の侵入者を防ぐ目的です。このリポートの中でも、「サッシ・シャッター工事」で報告しましたが、都心の人通りが多い場所という立地上、以前も泥棒の被害を度々受け、工事中も不審者が現場内に夜に侵入してきて、仕上げた柱などをカッターで傷つけられる事件がありました。安心して住み続けるためには、防犯上の自己防衛が欠かせない世の中になってしまったことを、設計者として目の当たりのした経験でした。木製の格子なので、時間を掛ければ切り落とすこともできますが、最初の5分が勝負という賊の侵入を思いとどませるだけの効果はあります。

 物干しのベランダも隣接する建物の外部非常階段から手が届く距離にあるため、周囲の窓に取り付けた木格子と同様の部材を高く伸ばして覆ってあります。完成した建物を外から見ると、窓やベランダが全て格子で覆われているために、室内が暗くなるのではないかという心配もありますが、格子を覆った室内は意外に明るいものです。日本各地に文化財として残されている街道沿いの町家に入ってみれば、木格子一つで室内と道を隔てている室内に時間によっては直射光も射し込み、内部が明るいものであることを経験することができます。防犯目的に密に組んであるので、窓を開けておいても覗かれる心配がないので安心できます。格子から吹き込んだ風が、室内を東西・南北に抜けていきます。木格子は人が密集して住む都市部において、住まいの居心地の良さを確実に上げてくれる装置であるといえます。

 さて、都市中心市街地やその周辺は、防災の観点から、火災の発生の際にその火災が他の地域に及ばないことを目的にした防火地域や、火災の炎症速度を遅くすることを目的に定めた準防火地域などに指定されていることがあります。そして、これらの地域内の建物は、階数と規模によって要求される防火性能が決められています。防火地域内で、新築住宅を木造で造ろうと考えた場合、床面積は100㎡以下、階数は2以下のものを準耐火建築物の仕様で設計する必要があります。準防火地域内では、延焼の恐れのある部分の外壁と軒裏を防火構造とする必要があります。屋根を不燃材料で葺くことは、どちらの地域にも共通しています。

 要求される防火性能は、建物の部位によって異なりますが、窓や外壁については、建物周辺で起こった火災に対して、室内へ熱を伝えない、火炎が貫通しない、窓や壁が崩壊しない、などの性能を20分から45分以上持ち合わせることが求められます。それでは、認定された性能をもつ網入りガラスの入ったアルミサッシの窓の外側に木格子を取り付けた時に、木格子が防火戸の性能にどのような悪影響を与えるのでしょうか。もちろん、木格子が時間の問題で燃えてしまうことは当然ですが、火を防ぐ効果がまったくないのでしょうか。

 この心配に対しては、早稲田大学理工学研究所の客員研究員である安井 昇氏による、加熱試験の報告が興味深い事実を示してくれました。日本建築センターから発行されているビルディングレター`04.10「伝統的工法による外壁や軒裏の構造方式の告示への追加について」という論文の中で、安井氏は、木格子の性能について次のようにまとめられています。以下引用。

 「実験では、アルミサッシ防火戸(網入りガラス入り)の外側に木格子を設けた場合と、設けない場合について、ISO834標準加熱曲線に準じた加熱を行った。その結果、木格子がある場合、木格子自体は燃焼するものの、それが炭化して脱落するまでの約10分間は、格子状に火炎が遮られるとともに、ガラスを通過して室内に入る熱が、木格子がない場合よりも減少する。防火設備(準者熱性能)には、外部で火災が起こった際に、20分間火炎を屋内へ貫通させない性能が要求される。この法令の要求を考えた場合、防火戸の外側に設けた木格子の燃焼が、防火戸の延焼防止性状に悪影響を与えるとは考えられない。」

  これら一連の実験の結果により、京都の伝統的な京町家様式で、既存家屋を改修し新築住宅を造ることが、現在では公に認められるようになっています。京都府建築工業協同組合製作の、『土壁と化粧軒裏の防災マニュアル』には、伝統的な工法の防火性能と納まりについて、とても分かりやすくまとめられていますので、参考にされてはいかがでしょうか。

 建築基準法の運用改正により、建築確認申請の審査の厳格化が行政や民間検査機関で行われている現在、準防火地域内での木格子の取り扱いについては一環した判断がされていないようです。研究成果を踏まえて、役に立つものはきちんと後世に伝えていくためにも、京都府などの例を参考にしてもらい、木格子の設置を当たり前なものとして認めてほしいと考えます。




写真2  土佐漆喰鎧壁と窓外の木格子。




写真3  杉材42×30を等間隔で納めた。




写真4  ベランダ周辺の格子。




写真5  室内からベランダの格子を見る。