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 荒壁塗り作業





 壁下地となる竹小舞が掻き終わり、数ヶ月前から準備しておいた荒壁土に藁を足して練り返したら、荒壁を付ける番です。練った泥をフネまで運ぶ人、才取り棒で塗り手に泥を配る人、コテ板の土を竹小舞に塗り付ける人、と連携作業で工事は進みます。水気のある重い泥を相手の重労働なので、人は大勢いるほど仕事がはかどります。竹小舞の片側から塗り付け、固まり具合を見計らって裏返し塗りを行います。荒壁の塗り厚は通常4㎝程度です。荒壁付けは、刻んだ柱・梁を組み上げる建て方、家の品格を決める屋根瓦葺きと共に、家づくりの大事な節目となる作業で、見ている方も気分が高揚します。

 荒壁土を竹小舞下地のどちら側から塗り始めるかという疑問は、貫が見えている側から土を貫の面まで付けていくのが、当事務所の場合は多かったようです。通し貫材の断面は120×27㎜なので、表塗りは30㎜程度、裏返し塗は10㎜程度塗ることになります。左官職が柱の際から塗り付けて一枚の壁の周囲をまず決めて、次に残った中央の部分を納め、最後に全体を平らに均します。見ているといとも簡単に作業が進んでいくので、素人もできそうな気になります。ところが、コテ板やコテを貸してもらい挑戦してみると分かりますが、コテ板の上の泥をコテにうまく載せることが難しく、大事な泥を壁に付ける前に下に落として現場を汚すことになります。コテ板を竹小舞下地に押し付けて、泥を下から上へ力任せに塗り上げることならできますが、今度はなかなか平らになりません。結局、本職に補修してもらうことになります。少しなら、経験が思い出になるでしょう。本格的に塗手として参加することが希望なら、柱・梁などの木部を落ちた泥で汚すことがないように、養生シート等で完璧に準備することです。














 荒壁塗りを見ていてほのぼのするのは、塗り手と配り手の掛け合いです。配り手は才取り棒の先のヘラに土を取り、塗り手から声を掛けられたら、すかさず相手に長い棒を押し出して土を届けます。「頼むー ほい」、「こっちもー はい」、「もう少し はい」と相手のコテ板のすぐそばに才取り棒を出して、塗り手が自分のコテ板の上にコテで寄せて取る作業は、お互いの息が合っていないとうまくいきません。配り手は、まわりを常に見ていなくてはなりません。江戸時代の職人図会にも、足場に載った塗り手に、下から才取り棒を突き出して土を配る作業が記録されています。機械化のしようがない建築作業が現代でも続いていることに、ほっとする瞬間でもあります。


 荒壁塗りが終えたら次は裏返し塗りですが、竹小舞下地の裏側に突き出た泥坊主の頭を、頃合をみて撫でておきます。こうすると、泥が竹小舞に鉤のように食いつき、表塗りが竹小舞と一体になって丈夫な壁を作ることに繋がります。裏返し塗は、裏から押してみて表塗りがへこまない程度固まったら、半乾きのうちに塗ってしまいます。数ヶ月乾燥させてから塗る地方もあることを経験していますが、粘土の粒子の結合が水によるものである以上、表塗りに湿気があるうちに塗ったほうが荒壁として一体となりやすく、その後に40㎜の厚さの壁を十分時間を掛けて乾かして効果させたほうがいいはずです。











 荒壁の役割は、土台・柱・桁などの木部の架構の間を埋めて、力が加わっても復元する粘り強い丈夫な構造体を作ることです。中塗りは上塗りのための平滑面を作ることにあり、仕上げ塗りは見た目を味わうことに意味があります。役割の違う塗り重ねが左官仕事の本来の姿とはいえ、荒壁面もきちんと平らに仕上がっている方が、次の作業にいい影響を与えるのはいうまでもありません。荒壁塗り作業には、多くの人が集まり、どこかお祭り的なにぎやかさがあり、助け合い・結い・地元の組仕事など、今では死語になった言葉が似合う作業でもありますが、やはり、作業の中心は本職に依頼すべきだと思います。もっとも、どこまでも自己責任で済ませられることが塗り壁のいい点でもあるので、自分の住処を自分でつくるという決意があれば、小舞下地・荒壁土づくり・荒壁塗りを、自分の力でゆっくりと進めていくことは可能です。画一化と時間短縮ばかりが進む時代には、大きな意味あると信じています。