メインメニュー
 荒壁土のつくり方





 竹小舞荒壁は、木材の架構体の間で粘りのある構造的な要素として働きます。漆喰は工場で配合された既調合袋ものの製品がありますが、大量に使う荒壁土は、現場ごとに粘土と藁を使って用意します。ここでは、荒壁土のつくり方についてまとめてみます。


 荒壁に塗る粘土の作り方には、田圃などを掘って採取した粘土に藁を切って混ぜ、現場で数ヶ月寝かせてから使うのが一般的です。愛媛県や愛知県では、通称ドロコン屋さんと呼ばれ、コンクリートミキサー車に粘土と藁スサを混ぜて水で練ってから運んでくれるのを経験しました。岩手県では、庭にシートを敷いてから粘土を盛った土手の四角いプールを作り、その中に粘土を藁と水を入れて混ぜ、竹製の簾に漉して小砂利や粘土ダマを取り除いて使っていました。



 荒壁土に求められる要素とは、乾いた時に壁全体が一体となって固まることでボロボロと崩れず、多少の湿気を吸っても流れずに粘性を保っていることの二点にあるように思います。このためには、粘り気のある土を選ぶこと、藁スサをたくさん加えること、できるだけ長期間寝かせてから使うこと、の三点が要となりそうです。





 粘土に6cm程度の長さに切った藁スサを入れて寝かせると、植物である藁は腐って発酵し、繊維質のセルロースと糊気のあるリグニンに分解します。粘土は、岩石が砕けた微細粒子に植物などの腐敗物が交じり合って長い間にできたのです。水に溶けますが、乾くと固まり衝撃により砕けます。藁スサを沢山入れる理由は、粘土が乾燥した時に粘土の粒子どうしを繋げる役割をセルロースが果たすためです。しかし、一度に沢山入れても土と藁スサがうまく交じり合わないので、藁の形がなくなるほど発酵したら、また新しい藁スサを加える作業を繰り返します。塗られた壁全体を藁のセルロースが密に絡み合って、多少の衝撃でも粘土の粒子がボロボロと落ちない構造を作り上げている訳です。仕事をお願いすることが多い加藤左官工業の加藤信吾氏は、土1㎥に対して、藁スサを60~70kg入れています。結果として、乾燥しても表面の割れが少なく、釘が効くほど硬い壁になります。

 一方、藁スサが発酵してできたもう一つの物質・リグニンは、粘土と粘土の粒子間にくっついて、荒壁に入る水分の量を調整する役割があるといわれます。左官用語で水引き具合という言葉がありますが、下地が水気をどんどん吸ってしまい次の塗り層が早く乾きすぎる場合などに、塗り材に糊を混ぜて作業時間を長くできるように調整します。東京の下町で左官仕事を経験してきた古老から聞いた話しでは、藁スサを多く入れて長い間寝かせてよく練った土を塗った荒壁は、隅田川が氾濫して壁の一部が水に浸かっても壊れることがなかったといいます。科学的にはまだ解明されていませんが、土壁の特性を研究している学者の説明では、リグニンが膜のような構造になって働いているらしいのです。









 シートを被せて寝かせた土を使用する際には、また藁スサと水を加えて練り返します。足で踏んで柔らかくしますが、この時に材料のなかの小石や塊のままの粘土を取り除いておきます。実際に練った土を鏝板に載せて塗ってみると分かりますが、ある程度柔らかくなっていなければ竹小舞に付けて伸ばすことができません。ダマになった粘土の塊は、いちいち取り除く必要があります。素足で捏ねることは現在ではほとんどありませんが、材料の微妙な練り具合を足の裏で感じ取りながら、材料を作り上げていく先人の知恵ともいえます。


 残念ですが、関東地方では左官用の荒壁土となる荒木田土を専門に採取している所はありません。建材屋さんに注文すれば用意してもらえる場合もありますが、当事務所では懇意にしている埼玉県北部の地瓦工場から、その都度粘土を分けてもらって、左官用の荒壁土として使用しています。全国には、粘性の高い粘土を掘っている地域も少なからずあります。当サイトの自然素材2にまとめたような赤色・黄色の荒壁土もあります。材料の注文が増えれば製造業者も仕事になり、またいい粘土も使えます。